【28】ぷつん
アムルちゃんが自身の初陣に選んだのは、レギエーラからほど近い沼の浄化だった。
最近、毒を吐く魔物が住み着いて、周囲の毒性が上がったらしい。このまま放置すれば、レギエーラにも毒の霧が流れ込むかもしれない。
「そこでわたくしの踊りですわ! 魔力を込めて地面に図形を描くように踊ることで、周囲を浄化する効果が得られるのです」
「へえ、すごいね」
要は、魔法の効果付きフィギュアスケート、ってことか。
ちょっと素敵。
目的地の沼は、確かに毒々しい見た目をしていた。広さは学校のプールほど。
沼の中心にはでっかいフジツボみたいな塊が鎮座していた。あれが毒の中心か。
沼の端から20メートルほど離れた位置に陣取る私たち。
アムルちゃんがまず祈りの踊りで周囲を浄化し道を作る。冒険者さんたちがフジツボもどきを排除する。大まかに言うと、そういう作戦だ。
私たちは待機。最初は自分でやりたいとのアムルちゃんの意思だ。
緊張した面持ちでアムルちゃんが息を整える。
「……いきます」
私はごくりと唾を飲み込んだ。
アムルちゃん、さっきまでの天真爛漫さはどこへ。真剣で、必死で、一生懸命だ。
私は、初めての大会に出場する妹を見るような気持ちで見つめた。
そのとき、隣でイケメンが一言。
「あ」
……ディル君や。もうちょっと緊張感を持ってあげてもよいのではないかね?
そんな、信号が目の前で赤に変わったみたいな声出さなくても――。
「主様。来ますよ」
「え?」
直後、すぐ近くの地面からアルマジロみたいな生き物が飛び出してきた。
不意をつかれたアムルちゃんに襲いかかる。
「きゃああああっ!?」
「アムルちゃん!」
冒険者さんたちがすぐに動くが、アルマジロの身体が硬く、武器が通らない。
「く、苦しい……」
のしかかられたアムルちゃんが。
苦しそうに。
あの明るい子が目の端に涙を。
「ううっ……! ああっ……」
「お嬢!」
――ぷつん。
「なに女の子押し倒してんだお前はああああぁぁぁぁっ!!」
ぐっと開いた手を――いつの間にか光り輝いていた――アルマジロ野郎に叩き付ける。
男の頬をスパァンと張るイメージだった。私としては。
……例によって身体が動いてから冷静になった私は、アルマジロが吹っ飛ぶ音を聞いた。
ごっばごぉっがっがっががががっどっざんざんざんばしゃあああずざざざざどんどんどん(以下フェードアウト)。
――こんな感じ。
えぇ……。
「飛びますねえ」
ディル君、それ以上言わないで。
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