【30】語彙力が羨ましい
――それから私は、アムルちゃんから踊りを手取り足取り腰取り(目がちょっと怖かった)教えてもらった。
私的には素人丸出し、下手もいいところだけど、アムルちゃんは私がステップをひとつ覚えるたびに「素敵です!」「綺麗です!」と褒めてくれた。
もちろん褒められて悪い気はしないけど……教えてもらって肌で感じた。アムルちゃんの努力はすごい。ないがしろにしたくはないなと思った。すごいのはアムルちゃんなのだ。
ひととおりミッションを終え、レギエーラの街に戻る。
へえ、ギルドでの達成報告ってこうやるんだね――と感心しながら冒険者さんと受付嬢さんとのやり取りを見ていた私。
隣にはずっとアムルちゃんがくっついていて、私は彼女の頭をよしよしと撫でていた。
どうやら彼女、一人っ子で友達も多くないらしい。そりゃあ甘えたくなるのもわかるよね……。
まだ十代だし。
十代……十代かあ! 若ぇなあ!
「お姉様?」
「こほん。アムルちゃん、私たちそろそろおいとましようと思うの」
「ええっ!? どうしてですか!? もっと一緒にいたいです!」
「ごめんね。もともと街には取引にきただけだから」
「じゃあそのお店買収します!」
過激派。
かの家の情操教育はいかがされたのか小一時間問い詰めたい。
目付役の冒険者さんたちを見ると、皆そろって視線を外していた。
「また来るよ」
「本当ですか!? 約束ですよ、絶対ですよ!? 沼から抜け出すなんて発想はアリが空を飛ぶようなものですからね!?」
「喩え方」
正直、その語彙力はちょっと羨ましい。
――こうして、私とディル君はアムルちゃんたちと別れた。
狼化したディル君の上で私はぐったりとした。
「つ、疲れた……」
「お疲れ様です主様。楽しかったですね」
「まあ、そうね。うん、行ってよかったのは確か」
君から言われると何か釈然としないけど。
チート城に戻り、シャワーを浴び、ご飯を作って食べて、片付け終わってようやくひと心地つく。
さあ寝ようと寝室代わりの封印の間に戻った私は、ふと、ディル君が外の景色を眺めているのに気がついた。
一面の星が瞬く空。ただ昨日よりも風がちょっと生暖かい。
「主様」
「なに?」
「レギエーラ方面で炎が見えます。おそらく、魔物の襲撃かと」
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