【24】帰りたい
紳士的なギルドから何やらけたたましい音と声が聞こえてくる。
これは、アレですね。就職したての子がいきなり修羅場の職場に案内されたときのアレな空気です。
帰りたい。
「何事だ、この騒ぎは!」
衛兵さんが果敢に中へ突入していく。
私もおそるおそる後に続く。ディル君は相変わらずのニコニコ顔。
中に入ると、そこはいくつものテーブルやソファーが並ぶ広いホールだった。
テーブルのひとつが倒され、割れた瓶やその中身が散乱している。
ザ・冒険者みたいな屈強な肉体と装備の男の人が数人、その周りを囲っている。
そして。
彼らの中心にはひとりの女の子が倒れていた。綺麗な服と髪がずぶ濡れになっている。
「主様?」
ディル君の声を背中に聞きながら、私は無意識に駆け出していた。
男の人の間を分け入り、女の子の傍らに膝を突く。
「ねえ、大丈夫!?」
声をかけるも、女の子はうつむいたまま返事をしない。
燃えるような赤い長髪が印象的な子だ。ひらひらしたワンピース風の服。どう見ても、冒険者ではない。
「あ、あの」
私はからからの口で男の人たちに言った。
「いくらなんでも、よってたかって女の子をいじめるのは、ダメだと――」
ひぃ……! 皆、いかつくていらっしゃる! 顔を見るんじゃなかった。超怖ぇ!
そのとき、むくりと女の子が身を起こす気配がした。
私はとっさに女の子を背中にかばう。
ああもう。自分のお人好しぶりに腹が立つ! だってしょうがないじゃん! 身体が勝手に動くんだもの!
そっと、後ろから私の手を握る女の子。少し濡れた手が、私の汗ばんだ手を冷やす。
「あの」
女の子が鈴を鳴らすような声で言った。
「貴女、踊ってくださる?」
「はい?」
男の人が言った。
「お嬢……まずは騒ぎのお詫びとその方への礼が先でしょうよ。勘違いとはいえ、助けに来てくれたのですよ?」
私は男の人を見た。
続いて女の子を見た。
「ね、踊ってみてくださいな、貴女! 今ここで! わたくしの直感にビビッと来ましたわ!」
キラキラした綺麗な目でした。
改めて帰りたい。
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