【25】わたくし、アムルと申します


 ――衛兵さんが男の人に聞き取りした内容。

 赤髪の女の子が祈りの踊りを披露して、誤ってテーブルごとひっくり返ってしまった。

 周りの男の人たちは、女の子の護衛として雇われた冒険者の人たち。女の子が小さいときからの顔なじみらしい。


「疑ってすみませんでした……」

「いや、いいってことよ。あんた、お嬢を助けようとしてくれたんだろ。礼を言うのはこっちさ」


 いかつい顔に爽やかな笑顔を浮かべる冒険者さんたち。

 ああもう。

 都会で薄汚れたココロに響く……。


「ほらお嬢も。ちゃんと謝れって」

「わかってますわよ……その。ごめんなさい。ご迷惑をかけましたわ」


 落ち着きを取り戻したのか、素直に頭を下げる女の子。


「わたくし、アムルと申します」

「あ、私はカナデ。連れの男の人はディルっていうんだ」

「カナデ様。良い名前ですわ。それでカナデ様、さっそくですが一緒に踊っていただけません?」


 諦めてなかったのか。

 隣で冒険者の男の人が額を押さえる仕草をしていた。


「わたくし、祈りの素晴らしさを魔物たちに知らしめるため、冒険者になりたいのです」

「ごめんよくわからない」

「踊ればわかりますわ」


 にっこにこ。

 あ、ダメだ。純粋だけど周りが見えないタイプっぽい。


 ディル君助けて――って、おいこら。なにギルドの人と話を進めてんのさ。宝石見せて顔面蒼白にさせてるの不安でしかないのだが。


「カナデ様!」

「え? ああ……うん。わかった。よくわからないけど、一回くらいなら」

「あはっ。やりましたわ! さあ、どうぞわたくしの手を取ってくださいな」


 再び女の子――アムルちゃんの手を握る。冒険者さんたちがしきりにすまなそうに手を合わせていた。

 まあ、一回くらいなら。

 踊りなんてさっぱりだけど、適当にアムルちゃんに合わせよう。きっとすぐ私の実力に気づいて諦めてくれる。

 さっさとこの場を切り上げて、ディル君の監視をせねば――。


「いきますわ、せーの!」


 瞬間。

 視界が真っ白に染まった。

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