【21】お仕事ご苦労様です


 ――と、いうわけで。街に突入です。


 あ、いちおうカムフラージュで、私もディル君もフード付きローブをすっぽりと被っている。

 カナディア様は生前、聖女だったので、念のため。

 右も左もわからない街の中で騒ぎにはなりたくない。


 ……まあ、中身が私なので、いらぬ心配だと思うけど。聖女らしさ、ゼロだもんね……。


 大きな城壁に設けられた入口にさしかかる。

 すると、詰め所から数人の男の人たちが出てきた。たぶん衛兵さん。

 私たちの行く手を遮る。


「許可証を」


 あ、詰んだ。


「あの……私たち、旅の者で。道に迷ってさまよっていたら、大きな城壁が見えたので、何とかここまで来たんです」


 できるだけゆっくりとした口調で話そうとしたが、頭の中はパニックだった。

 何とかしなきゃと気ばかり焦る。


 そのとき、ディル君が一歩前に出た。自分の懐に手をやる。

 ――まさかヤル気かお前。


「ちょ、ディル君、ストッ――」

「これで証になるか?」


 いつもとは違う威厳を感じる口調で、ディル君が小さなアクセサリーを取り出して見せた。

 後ろからちらりと見えたそれは、何の変哲もない小さな十字架のペンダント。特に変わった装飾が施されているわけでもない。


 ペンダントを見た衛兵さんたちは、お互いに顔を見合わせた。


「ふたりとも。詰所に来るんだ」


 あ、今度こそ詰んだ。

 衛兵さんたちに連れられ、とぼとぼと歩く私。

 一方のディル君は不思議そうだ。


「主様? どうなさったので?」

「どうしたもこうしたもないよ……ああ、いきなり逮捕だあ。監禁だあ……!」

「よくわかりませんが、やっぱりめっちゃんこにすればいいですか? 気の良い人間だと思うのですが」

「めっちゃんこはダメ……って、え? 今、何て言った?」


 そうこうしているうちに詰所の中へ入るよう促された。

 衛兵さんたちは私たちを長椅子に座らせると、飲み物を出してくれた。わざわざ湯を沸かしてまで。

 カップの中身はカフェオレのような見た目。甘い匂いで、口に含むと思わず「ほう……」と声が漏れた。これはいいものだ。


 衛兵さんのひとりが言った。


「ようこそ、神殿都市レギエーラへ。ここまで大変だっただろう」

「……へ?」

「最近は巡礼者もめっきり減った。君たちは勇気がある人たちだ」


 ――ディル君が見せたアクセサリー。あれは巡礼者を表すものだったらしい。


 私たちを心から気遣い、歓迎してくれる衛兵さんたちに、私は目をつむった。


「ディル君」

「はい」

「私を一発ぶんなぐって」

「運動ですか? 詰所が吹っ飛びますが大丈夫です?」

「やっぱナシで」


 首を傾げる衛兵さんたちに、私は深く頭を下げた。


 お仕事ご苦労様です……。


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