【20】街は街


 ――それから身支度を済ませた私は、狼化したディル君の背中に乗って、チート城を出発した。


 外に出て初めて知ったが、お城は山岳地帯にぽっかりと空いた緑地に建っているようだ。いちおう、外からも人が来られるよう、広めの道がある。

 巨大な魔物がうじゃうじゃいる中を突っ切ってくる猛者がいればの話だが。


 ディル君は「雑魚に構っていると面倒くさいので」と言って、道なき道をポンポンジャンプしていく。

 ジェットコースター真っ青だった。キミは私を精神的に殺す気か。

 いちジャンプにつき清水寺飛び降り一回分の恐怖を味わう。


 ――二時間ぐらい、その地獄が続いただろうか。


「着きましたよ、街」

「ぜはーっ……ぜはーっ……よ、よがっだ……いぎでる、私……!」


 息も絶え絶えな私を、ニコニコ首を傾げながら見つめるディル君。

 もはや彼に一般的な恐怖の概念を教え込むのは諦めて、私は目の前の城壁を見上げた。

 立派な規模だ。元の世界ならまず間違いなく世界遺産レベル。


「ここ、何て言う街? どこかの国の首都とか?」

「? 街は街ですが? シュトって何ですか?」

「おいマジか」


 街は街ですって、そりゃ街は街なのは見ればわかるが。

 君は名前も知らない街に私を連れてきたというのか。

 貴重な素材を交換するって言ってたじゃん! 何と交換するつもりだったのよ!


 え、大丈夫!? 買い物とか、この国の常識とか、諸々大丈夫!? これでも結構楽しみにしてたんですけど! 嫌だよ、入った瞬間逮捕拘束なんて!


「人間の街って面白いので、きっと大丈夫ですよ」

「ディル君。そこにお座りなさい」


 大人しく言うことを聞くわんこ君に、私は決意を新たにした。


 学ぼう。この街の常識を。

 うちのわんこが粗相をする前に――!

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