【19】もし私に猫耳と尻尾があったら
プロレスよろしくフォールカウントを取るディル君。六まで数えたところで私を振り返った。
「『魔力抜き』終わりました。さすが主様です! イノシシの黒い魔力がすごく抜けやすくなってましたよ!」
「あ、ありが、と?」
ディル君の話だと、この辺りの生物は魔王の黒い魔力に汚染されている場合が多くて、食用にするには血抜きならぬ魔力抜きをして無害化する必要があるのだそうだ。
確かにこのまま食べたらお腹壊しそう。
――私の魔力がイノシシを吹っ飛ばした光景はできるだけ脳裏からキックする。
私は苦笑した。
「でもびっくりしたよ。いきなりディル君がプロレスみたいにカウントするから」
「ああ、あの楽しそうなイベント対戦のことですか?」
「だからなぜ知っている」
もしかして、私が転生するときに生前の情報が漏れてたりしないよね?
ディル君が巨大イノシシを地面から引っこ抜き、ずるずると引きずって運ぶ。しかしすぐに立ち止まって、
「不格好な轍ができるのもアレですね。主様、申し訳ないですが、足を持っていただいていいですか?」
「え、無理だよ。こんなでかくて重そうなもの――」
ひょい。
「まさかと思ったけど嘘だろ」
「じゃあいきますよー」
二人して軽々とイノシシを城まで運び、そこでディル君が手早く解体を始める。
私は気力を総動員して、その様子を見守った。こちらの世界で生きていくのなら、このリアルから目を背けるのは不誠実だと思ったからだ。
でも……うわ、グロ。ちょっと吐きそう。
「ああ、そうだ主様」
「な、なに……?」
「こいつ解体していたら、珍しい素材が出てきました。どうです? これを交換するために、街へ降りてみませんか?」
もし私に猫耳と尻尾があったら、ピーンと立っていただろう。
◆◇◆
第19話までお読みいただきありがとうございました。
次話から新しい街へ。
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