【16】チートなのは私か


 ふう。さっぱりした。


 真新しい服に袖を通し、脱衣所で水をごくり。

 いやーこれ、まんま旅館だなあ。

 内装が西洋っぽいことを除けば、習慣も身の回りのモノも日本とおんなじで十分いけそう。


 ……まあ、下着も見慣れた形だったのはちょっと驚いたけど。


 これを用意したのはディル君である。いつの間にか綺麗にたたんで置かれていた。

 ちなみに脱いだ諸々はどこかに消えていた。


 お前ぇ。

 私をダメ人間にする気か。カナディア様に憐憫の目で見られたら炎天下の水たまりのごとく消え去るしかないじゃないかあ。


「……ごめんねディル君。着替えとか助かった」

「いえいえ。これくらいお安いご用です。主様は気になさらないで下さい」


 お前ぇ……。


 気を取り直し、朝食を作る。一人暮らしが長かったせいか、誰かと一緒に食べるご飯は地味に楽しい。

 ましてや相手がイケメン人狼尻尾フリフリやんちゃ弟君となれば、嫌でもにやけてしまう。

 ……いけない。聖女としての品格が。カナディア様の尊厳が穢れる。


 食事が終わり、一緒に洗い物をしていると、「今日はどうしますか?」とディル君が聞いてくる。


「そうだなあ。とりあえず昨日植えた田んぼを世話しなきゃ」

「了解です」


 ――というわけで、城の裏手の田んぼへ。

 さすがのチート城といえど、一日で収穫というわけにはいかない。苗は昨日植えた状態のまま、そよそよと気持ちよさそうに揺れていた。


 うーん。このなーんも考えなくていい時間……最高。


「では、ちゃちゃっと60センチくらいまで生長させましょう。主様の魔力で」

「チートなのは私か」


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