【15】呪文を唱えた。しかしなにも起こらなかった


 魔法でシャワー。

 ええ、無駄遣いだろうと使います。

 だがしかし。

 社畜時代、汗を流すときと寝るときが唯一の救いだった。気合いも入る。


 この世界の浴場がどんなものかわからなかったけれど、想像以上にキチンとしてた。脱衣所、身体を拭く部屋、一休みする部屋、そして大浴場(しかも複数)……。

 これ、下手な旅館より設備揃っていることない?


 脱衣所で服を脱ぐ。


「おおう……」


 たまたま目に入った姿見の前で、変な声を出す私。


 初めて転生したときも思ったけど……聖女様、スタイル良すぎじゃないですかね?

 女の私でも四度見くらいするよ、これ。

 何だろう、雑誌に載るアスリート、みたいな?

 柔らかそうなのに、締まるところはしっかり締まってるみたいな?


 ……ちょっと恥ずかしくなってきた。

 天からカナディア様が苦笑いしているよ、きっと。

 目的を思いだそう。


「えっと。確か魔力は全身を巡る流れ。それを意識して……」


 空の浴槽に立ち、深呼吸。イメージを固めていく。


 ――一瞬、魔が差した。


「来たれ水精の抱擁!」


 呪文を唱えた。

 しかしなにも起こらなかった。

 浴室内は声がよく響く。めっちゃ恥ずかしい。まさに恥の上塗り。


 けどこれでひとつ学んだ。魔法は詠唱じゃなく、集中力、イメージの問題だ。

 シャワーってどんなもの? 細かな水流、程よい温度、水量、降り注ぎ、汗と疲れを押し流してくれる感じ――。


 いつの間にか目を閉じていた。

 気がつくと、私の身体は薄い青色のオーラに包まれていた。

 綺麗な金髪が重力に逆らって浮き上がる。

 オーラを慎重に操って、頭の上に集める。大きな水玉が出来上がった。


「……えい!」


 タイミングを見計らい、魔力を解放する。

 直後、水玉から細かな水滴が降り注ぐ。


 できた。できたよ、私でもできた!


 調子に乗った私は、水玉をさらにふたつ生み出し、ぐるぐると回転させながら水滴を放つ。

 ふふふ……! 見よ、全自動全方位シャワー! これで疲れに勝つる!


「――っっつ!!?」


 調子に乗りすぎて温度調節失敗した。


 次回の課題。集中力の維持。あと調子に乗らない。



 

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