【12】やっぱ労働っていいね


「ううーん……!」


 某国民的アニメのように、育苗箱の前で手を合わせて念じる私。

 ディル君が言うには、魔力は全身を巡っている血液のようなもので、その流れをしっかりと意識すればするほど高い効果、繊細で効率的な運用ができるらしい。


 うん、どこかで聞いた話。あるよね、そういう設定。


 けど、実際にやるのはやっぱり違う。

 魔力の流れ……これかな? うわぁ、ほんとだ。何か温かくてふわふわしたものが身体の芯を巡る感じ。

 ぞわぞわする。

 ちょっとクセになりそう。


「えい!」と魔力を放出する。少しずつ少しずつ、まるで花に水やりするように種籾にふりかける。

 後ろでディル君が「おおっ!」と歓声を上げた。


 種籾が苗に生長していく。まんま、早送り映像だ。

 おっと、集中集中。大切な苗を伸ばしすぎてはいけない。確か徒長っていうんだっけ? 育ちすぎのこと。

 ものの数分で、育苗箱に青々とした苗がずらりと並んだ。


「さすが主様。ばっちりです。さあ、田んぼに植えましょう。魔法でぱぱっと――」

「待ってディル君」


 私は提案した。


「最初のこれは、私が自分で植えていい?」


 たぶん、生前のカナディア様ならそうする。私自身も、なんか、そうすべきと思った。

 目をぱちくりさせたディル君だったが、すぐに優しい微笑みに変わってうなずいた。くそう、イケメンは何やっても絵になるな。


 すっかり準備が整った田んぼの中へ、苗を手にして入る。

 土の柔らかさ、匂い、水の冷たさ、日差しの心地よさ、暑さ――。

 植えた苗の列はぐちゃぐちゃになっちゃったけど……。


「……よし、と。ふふ」


 泥の付いた手で汗を拭う。


「やっぱ労働っていいね。ありがたいね」


 心から言った。


 あとまったく痛くならない腰。カナディア様、ありがとうございます。



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