【11】聖女が肥料なのだね


 ――と、いうわけで田起こしは完成した。

 何だか全国の農家の皆さんに申し訳ない気持ちになる。まあ、ここは現代日本じゃないけれど……。


「主様、ちょっといいですか? ちょっと手伝ってほしいことがありまして」

「手伝ってほしいこと?」


 ディル君に連れられ、お城の納屋に向かう。

 納屋……と言っても、さすがチート城だけあって、高校の教室くらいの広さがあった。

 その一角に、木枠に囲まれた場所がある。よく見ると、敷き詰められた土の上に茶色い粒がいくつも散らばっていた。


種籾たねもみです」

「マジか……え? こっから?」

「ええ。主様に手伝っていただきたいのは苗作りです」


 木枠の前まで連れて行かれる。

 これってもしかして、育苗箱ってやつだろうか。こんなでかいの? いや、そんなことより。


「苗作りって……私、ずっとここで苗の面倒見てるの? 何日かかるかわからないのに?」


 ガーデニングより大変なんだろうな。

 じーっと苗を見守り育てる生活……あれ? 案外悪くないかも。


 ディル君はハハハと笑った。


「そんなにかかりませんよ、大丈夫です。主様の魔力で、この種籾を育て上げてください」

「え? ええっ!?」

「育苗ってタイミングが大事らしいんですが、俺、細かな魔力操作って苦手で。俺がやると育苗箱が大草原になると思うんですよね」


 それはまさに草。


「ちょうどよい機会です。カナディア様から受け継いだ聖女の魔力、ここで存分に発揮しましょう! 俺、応援します!」


 私は育苗箱を振り返った。


 この世界は魔法が重機なだけでなく、聖女が肥料なのだね。

 なんだそりゃ。


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