【10】魔法って、重機だったんだね


 落ち着いた。

 ひとりで騒いで、バカみたいじゃない? 私。

 石造りのテーブルの上には、二人分のお鍋。ほかほか湯気を立て、我ながら美味しそうだ。


「ディル君遅いな」


 そんな夫か恋人の帰りを待つ女のような台詞に少し赤面ししつつ、ふと、思い至る。


「水田って……そんな簡単に作れるの? ホントに?」


 さすがに心配になってきた。ディル君はできるってあっさり言ってたけど。

 あの子、何となく抜けている感じがするからなあ……。


 様子を見てこようと立ち上がる。

 キッチンを出て、長い廊下を小走りに行く。こんな広い建物は初めてだ。


 ふと、吹き抜けの窓からディル君の姿を見つけた。

 広い庭にぽつんとひとりで――うずくまっている。


「ディル君!?」


 私はとっさに窓枠に足を掛けた。そのままひらりと飛び出して、「あ」と間抜けな声を出す。


 ここ三階――!!

 バカーッ、転生初日に自殺する主人公なんて聞いたことないわよっ!

 たとえ死ななくても怪我は嫌! 痛いのは勘弁して――!


 ――スタッ。


 無事着地。いや嘘でしょ。

 痛みも衝撃も何にもない。なんだこのチートフィジカル。


「あ、主様!」


 私の気もしらず、暢気に尻尾をふるディル君。

 その後ろで、信じられない光景が繰り広げられていた。


 地面が……ひとりでに耕されていったのだ。


「や-、久しぶりなんで魔力を馴染ませるのに時間がかかって。あ、でも魔法はちゃんと発動したんで、あとは待つだけですよ。一緒に見学しましょう、主様」


 まぶしいばかりのイケメンスマイル。その後ろで猛然と進行する田起こしの轟音。

 ゴゴゴゴゴゴ……ッ!! ガガガガガガ……ッ!!


 知らなかった。

 魔法って、重機だったんだね。

 

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