【5】あなただけの


「俺のことはディルとお呼び下さい。我が主、カナデ様」


 そう言ってにこりと微笑むイケメン人狼――ディル君。

 いけない。君付けなんておこがましいぞ私。こんな顔面神に対して。ご尊顔を拝するだけで眼福だというのに。


 ……ん?


「あれ? 私の名前……」

「はい。主様のことはカナディア様から聞いています。あなたが新しい俺の主様です」


 なんだこの、全力で尻尾を振ってくる感じは。

 かわいいではないか。

 私を殺す気かい? 一度は死んでるからばっちこいだよ?


 こほん、と咳払いをして、身体を起こす。

 正直、このまま膝枕されていると本気で心身にみっともない影響が出そうだった。

 話題を変える。


「ええと、ディル君?」

「はい主様! さっそく散歩ですか?」

「いやいや」


 マジでわんこ。


「そうじゃなくて、私、カナディア様のお身体に転生したばっかりで、右も左もわからないのよね」

「なるほど」


 ディル君がすっくと立ち上がる。背、高ぇ。


「ここは大聖女の城。あなたのために建てられた、あなただけの城です」


 いきなり一国一城の主からスタートとなったようです。

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