第6話 息子の異変(side:カルア)

支払いを滞らせたシャロンに今度から天引きにすると言いに来た帰り、ヨハンに呼び止められた

「父さんに頼みがあります」

ヨハンは珍しく改まった物言いをした


「俺に家を継ぐ資格はありません。勘当してその時の為に取っていた金を返済に充てていただくことは出来ませんか?あれがまだ俺の為の金ならの話ですが…」

「お前何を…」

長男であることに執着していたヨハンの言葉とは思えなかった


「俺はこれまで長い間最低の行いをしてきました。今さら取り返しがつかないことは分かっています。でもすべてを清算して、やり直したいんです」

「シャロンはどうする?」

「俺の返済の残金は全てシャロンの返済に充ててください。それでも残った分は父さんに任せます。俺はシャロンを愛すことは出来ないし、これ以上シャロンに無駄な期待を持たせ続けるのも…このままいけばシャロンも俺も壊れるのが目に見えています」

確かにヨハンの言う通りシャロンは普通ではない

婚姻させてからシャロンの行動はストーカーに準ずるものがあると報告もあった

元からそうだったのだろう部分も大きいが、ヨハンに執着するあまり暴走しているのも否めない


「…お前の要望は分かった。だが一体何があった?」

「…この1年、シャロンのおかげで色んなことに気付き考えさせられました。マリエルがアジアネス家をあっさり切り捨てた理由も身に染みて分かりました」

「それほどか…」

シャロンがそれほど酷いとは思ってもいなかった


「それに最近になって、かつての旧友に会ったのもきっかけにはなりました」

「…」

「マリエルにもレオンにもどれだけ謝罪しても償いきれない」

「ヨハン…」

レオンに対しては私自身思うところがある


あの日切り捨てられたのは明らかに私の方だった

妻の言葉も聞かず虐げ続けた事実は消えない


あれから隣国の情報を集めた

学園や騎士団をはじめ、王族を救出したという事件のあらましも含めてだ


レオンが家にいたときよりも苦労し、その上で今の地位を得たと知って私は初めて後悔したのだ

マリエルが置いていった先代から必ず読むようにと渡された本を、私はちゃんと読むべきだったのだ

それ以前にヨハン同様大切な息子として向き合うべきだった


「お前は…これからどうするつもりだ?」

「こっちの事が片付けば僻地の開拓員に応募しようと思っています」

「あれは罪人の…」

「俺も立派な罪人でしょう?無料奉仕ですが働いている期間の衣食住は確保されるそうです。だから俺は、そこで生涯償おうと思います」

一体何があればあの傲慢で自分の事しか考えられない偏った見方がここまで変わるというのか…


「お前の気持ちは分かった。できるだけ早く手続きをする。それでいいか?」

「はい」

ヨハンは頷くと町の方に向かって行った


「家にいる時間が少ないとは報告を受けたが…」

シャロンと関わる時間を減らそうとしているのは明白だった

私の知らないところで様々なことが起こっているのだと認めざるを得なかった

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