第5話 離れていく心(side:シャロン)

最近ヨハン様は帰りが遅くなった

同じ職場で働いているのだから仕事が終わっているのは分かる

なのに最近は夜の10時より前に帰ってくることが無い

どこに言っているのか尋ねてもはぐらかされるばかりだ

何度か後をつけてみたけどいつの間にか姿を見失ってしまう

今の私に出来るのは待つことだけだった


“バタン…”

「帰ってきた」

扉の音に玄関に向かった


「お帰りなさい」

「…ああ」

目も合わさずそう返される

でも食事はちゃんと家で食べてくれるから、他所に女がいるとかってわけじゃ無いと思う

それに毎晩私が意識を失うまで抱いてくれるし…


「ご飯温め直すね」

「ああ。先にシャワーを浴びてくる」

そう言って浴室に向かうヨハン様を見送り私は食事を温め直す


ダイニングに来たヨハン様の目の前に食事を並べるとすぐに食べ始めた

今日はスープに媚薬を入れてある

ヨハン様が冷たくなったからと2滴に増やしたのは半年前

それ以来体を重ねているとヨハン様からとてもいい香りが漂ってくるようになった

その香りはとても刺激的で私も以前より感じやすくなった気がする


「ねえヨハン様」

「…」

「明日カルア様がこちらを訪ねたいって。ヨハン様も同席するようにって」

「…わかった」

一瞬嫌そうな顔をしたヨハン様

でも父親にそう言われて逆らうような人じゃないのは良く知ってる

尋ねてくる理由は分からないけどヨハン様と過ごせるならそれで構わない

大丈夫

この媚薬がある限りヨハン様はいつでも私を求めてくれるから


*******


次の日の昼過ぎカルア様がやってきた

「突然何の用?」

ヨハン様は随分機嫌が悪そうだった


「父親が尋ねて来るのに理由が必要か?」

「…」

「まぁいい。話はシャロンの事だ」

「私?」

まさか自分の事だと思わず驚いた


「先月支払いがされていないな」

「あ…ドレスを買ったら予算をオーバーしてしまって…」

「言い訳はいらん。ずっと謝罪なり報告なり待っていたが無駄だったようだな」

「…」

しくじったと思った

言い訳の前に謝ればよかったと思っても今さら遅い


「シャロンに関しては今月から天引きするよう学園と話を付けた」

「そんなの酷いわ!」

「約束を守らないのが悪い。天引きすれば払い忘れもないだろうから丁度いいだろう」

「そんなぁ…」

今回うまく逃れたと思っていただけにショックは大きい

このまま時々払わずに済ませられると思ってたのは大きな間違いだった

そんな私をヨハン様は庇うどころか軽蔑したような目で見ていた

旦那様なら庇ってくれてもいいのに…


「話はそれだけだ」

カルア様はそう言って立ち上がる


お父様と違って泣き落としが通用しないのが難点なのよね

でもこの屋敷に住まわせてもらってる以上下手に文句も言えない

食材も全て提供してもらえるしドレスを買ったりしなければ生活はできるものね

ただそれが私にとっては耐えがたいことなんだけど


私がそんなことを考えているとヨハン様がカルア様と一緒に外に出て行った

何か話しているけど私にはきっと関係ないことなのだろう


それがまさか支払いを早めるための交渉だなんてこの時の私は思いもしなかった

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