第24話 穏やかな時間

パーティーでの突然の結婚後、私たちは穏やかな日々を送っていた

結婚の翌年生まれた長男は先日2歳になった

そして今、私のお腹には新たな命が宿っている


「かーさま!みてー」

大きな声でそう言いながら駆け寄ってくるのは息子のマリオだ

その後ろからレオンが歩いてくるのが見えた


「マリオ、今日は何を拾ってきたの?」

「えとね、このおはな!かーさまにあげる!」

マリオは1輪の白い花を私の方に差し出した


「まぁありがとう。とっても嬉しいわ」

花を受け取りマリオの頭をなでると嬉しそうにしがみ付いてくる


「マリオ、ちゃんと渡せたのか?」

「うん!わたせたよ」

レオンの言葉に頷くと今度はレオンに手を伸ばす

レオンはそんなマリオを抱き上げた


「体は何ともないか?」

「ええ」

差し出された手を掴み立ち上がると肩を抱き寄せてくれる

過保護すぎる旦那様は今でも健在だ


「サロンで昼寝でもするか」

「するー」

「そうね。マリオもレオンもゆっくり休まないとね」

「かーさまは?」

「私は2人の寝顔を見るのが一番の楽しみだからいいのよ」

「じゃぁ、ぼく、いっぱいねる!」

無邪気な言葉に笑みがこぼれる

サロンには今巨大なソファーが置いてある

一見ベッドにも見えるソファは妊婦の私でも座りやすいように整えてくれていた

いつものように私が真ん中に座ると両サイドから頭が落ちてくる

膝にかかる2人分の重みは私の幸せの証でもある


「どうかしたのか?」

かけられた声に視線を下げるとレオンが心配そうに見ていた


「大したことじゃないんだけどね」

「ん?」

「この子が生まれたらどこでお昼寝するのかしらって」

「…」

お腹をなでながら言うとレオンが黙り込んでしまった


「レオン?」

「…それまでには夜寝れるようにするよ」

レオンが夜の事を口にするのは初めてだった


「気付いてんだろ?」

「まぁ…ね」

「最近少し寝れるようになってきた」

「そうなの?」

流石にそこまでは気づかなかった


「寝れなくなった理由が理由だからな」

「…聞いても?」

レオンから振ってきた話題なら聞いても大丈夫だろうかと尋ねてみた


「認められるようになってから色んな奴らが送り込まれてきてたんだよ」

「…それは暗殺とかってこと?」

「それもある」

「も?」

「7割くらいは女」

女?と言うことはハニートラップ的なものなのだろうか?


「既成事実を作って取り入ろうとしてたんだろうな」

「…」

「使用人に金を掴ませて入り込んだり、呼ばれた席でクスリ仕込まれたりかな。まぁクスリなんて効かねぇけど」

その言葉にようやくこれまでの謎が解けた気がする

そんなことが日常的に起こってれば気の休まる時がないはずだ


『ずっと張りつめた精神でやってきたレオンを癒してやってくれ』

初めてミカエルに会った時に言われた言葉が頭を過る

あれは全てを分かっていて零された言葉なのだろう


「女の人を異常に避けるのも、外で何も口に入れないのも…使用人を置かないのもそのせい?」

「ああ」

なんてことだろう

そんな辛い状況でレオンは一人で耐えてきたんだ

そう思うとやり切れない気持ちが溢れてくる


「例のパーティーの後、ミカエルが俺の立ち位置をはっきりさせてくれただろ」

「うん。中立で政治的なかかわりを持たないって宣言してたやつだよね」

「ああ。おかげで俺を取り込む価値がなくなったし、お前との事も国が後ろ盾になったから手を出せなくなった。お前に手を出すってことは国に手を出すと同義になったからな」

そう言うレオンの顔には安堵が見える


「だから…少しは気が楽になった?」

「一応な。ただ、警戒し続けてきた時間が長い分簡単にはいかない」

申し訳なさそうに言うレオンの髪をなでる


「それでもいい。レオンが普通の生活を送れるようになってきたならそれでいい」

「お前らしいな」

伸ばされた手が頬に触れる


「こんな穏やかな時間が持てるとは思ってなかった」

「そう?」

「子どもの頃からずっと望んでたけど、決して手に入らなかったものだからな。こいつらには絶対あんな思いはさせたくない」

「そうだね。何があっても守りたい。どんな時でもこの子たちの為に動きたい」

「ああ」

「これからもっとたくさんの幸せを作って行こうね」

あの日、自分の為に出来る仕返しはした

無駄にされた長い時間の正当な補填もさせてもらった

もっと懲らしめてやることも出来たけどそんなことをしても私たちの時間は戻らない

辛かった日々がなくなるわけでもない

だから私たちに価値を見出した元家族を切り捨てることで終わりにしたのだ


「マリエルの事も絶対守るよ」

そう言いながら首に回った手に引き寄せられる


2年前に、あるきっかけでヨハンとは和解した

もう会うことは無いだろうけど元気にやっていればいいと思う

残念ながらレクサとシャロンとは平行線のままだけど、その後あの人たちがどうなろうと私には関係ないことだ

ただ、この先顔を合わせたり、関わることがあったとしても幸せだと胸を張って言える自分でありたい

心からそう思ってる


END



*******


これにて本編完結です。

この後番外編にすすみます!

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