第21話 想い

「ここが…?」

広大な庭が広がっているその先に大きな屋敷が見える


「ああ。あいつを助けた時の褒賞の一つだ」

「これが?地位もその時のだよね?」

「ほかにも金と、この裏の山も付いてきたな」

「え…」

それは流石に多すぎじゃない?


「しかもその山からダイヤが出た。そのせいでそれまで俺を蔑んでたやつが手のひら返したように寄ってくるようになったんだ」

「レオン…」

「あいつを助けに行くための物資と資金の援助を頼んだ時は見向きもしなかったのにな」

レオンの渇いた笑いがこぼれた


「中を案内するよ」

切り替えるようにそう言うと私の肩を抱いて歩き出す

その温もりがレオンの側にいるのだと教えてくれる

屋敷の中はとても広かった

掃除は魔道具で全て済ませているらしい

それもレオンの創り出した独自のものだという


「他人をあんまり入れたくないんだ。人は簡単に裏切る」

その言葉にどれだけの想いが込められているのか私にもわからない

認められなかった日々も、ある日を境に変わってしまった世間も、レオンにとっては不信感を募らせるだけだったのかもしれない


「どうした?」

出された紅茶を前に黙り込んでしまった私にレオンが不安そうに尋ねてくる


「ん…レオンの側にいるんだなって…やっとあの檻の中から出られたんだって…」

ヨハンが言った一言のせいで、自分の意思で破棄することも逃げ出すことも許されない、無駄になるとわかっていた長い日々

姉の陰湿な嫌がらせや暴力から始まり、婚約者だったヨハンの取った態度で学園中が敵となった

蔑む言葉はあいさつ代わり、物がなくなるのも珍しいことではなく、物を投げられたり水を掛けられたり、暴力を振るわれたりするのもよくある事だった

それらすべてが私自身が望まないヨハンの嫌がらせによる婚約のせいだった

もし気に入られたり価値を見出したりされれば、卒業前の婚約破棄はなくなると思い、商会の事も容姿も、様々な力も隠してきたのだ


「レオンがいてくれてよかった…」

「…それは俺のセリフだ」

そう言いながら強く抱きしめられる


「全て終わった」

「うん」

「だからマリエル」

「?」

「俺と新しい人生を始めよう。マリエルがいれば他はどうでもいい。何があっても、誰が相手でも絶対に守って見せるから」

「レオン…」

「マリエルだけを愛してるよ」

初めてはっきり告げられた言葉だった


「私も…レオンを愛してる…ずっとこうして抱きしめて欲しかった…」

私も想いを告げると一瞬レオンの体がこわばった


「…このまま俺のモノになれ」

ささやくなり抱き上げられた

向かう先には大きなベッドが見える

これから起こることは言われなくてもわかる

でもそれは私も望んだことだ

幸いこの国は婚約者同士の婚前交渉には寛容だ


「ずっと触れたかった。だから先に謝っとくよ」

「え?」

「優しくできるように努力する。でも無理かもしれない」

少し苦し気な笑みに息を飲む


「レオンの思うままに…」

「マリエル…」

「触れたかったのはレオンだけじゃないから」

優しい笑みが返ってきた

長い間お互いの心の中にため込んだ想いを伝えあうように互いを求めあった

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