第20話 手続き

レオンの転移で隣国に移動した私たちは王太子の元を訪ねた

「よく来たなレオン」

25歳の王太子はにこやかに迎えてくれる


「君がマリエルか?」

「はい。突然の登城お許しください」

「構わない。俺の事はミカエルと。それにしてもレオンに聞いていた通り凛とした美しさだな」

ミカエルはどこか嬉しそうにそう言った


「恐れ入ります」

「レオンが助けてくれた際の物資と資金の援助をしてくれたと聞いた。改めて礼を言わせてくれ」

ミカエルの言葉に焦ってしまう


「勿体ないお言葉です。私の方こそ商会の件ではお世話になりっぱなしですし…」

「マリオン商会がこの国に来てくれたのは喜ばしいことだ。品質の良さと品揃え、対応の良さ、すべてが最高レベルだ」

ほめちぎるミカエルに少々居心地が悪くなってきた私を見てレオンが苦笑した


「…もういいだろ?そんな事よりこいつの入国手続き頼む。転移で来たから検問通ってないんだ」

「あぁ、なるほどな。入国と同時に住民登録も済ませていいのか?」

「できるのなら有り難いが」

「俺を誰だと思ってる?」

「…そうだったな。じゃぁ頼むよ。必要な書類は…」

レオンはそう言って書類を取り出しミカエルに渡した

ミカエルがその書類を側近に渡すとすぐに出て行った


「すぐに済むだろう。それで、これからどうするつもりだ?」

「せっかくだし例の屋敷を使うことにした」

例の屋敷が何を指すのかわからず私はただ耳を澄ますしか出来ない


「ほう。ようやくか?」

「一人であの屋敷は虚しいだけだろ…」

「まぁ…そう言えなくもないか?」

「そうなんだよ。でも立地的にはいい場所だし商会からも近いしな。何より庭が広い」

「庭?」

庭が広いというワードに食いついてしまった


「ああ。多分気に入ると思うぞ?」

「何だ、マリエルはまだ見てないのか?」

「転移して直接こっちに来たからな」

「なるほど、レオンらしい」

その後も2人の談笑は続いた

とても親しそうだと思いながら2人のやり取りを聞いていると突然ミカエルがこっちをみた


「マリエル、この先レオンの事をよろしく頼む」

「え…?」

「レオンはこの国で受け入れられるまで君だけを支えにしていた」

予想外の言葉にレオンを見るとフイっと顔を反らされてしまった


「ずっと張りつめた精神でやってきたレオンを癒してやってくれ」

「ミカエル様…」

「その指輪を見る限りプロポーズを受けたんだろう?」

ミカエルの視線の先にはさっきもらった指輪がある


「来月城で開くパーティーがある。その時には是非2人で参加してレオンの男色だという噂を蹴散らしてやってくれ」

「男色…?レオンが?」

「…」

レオンが手で顔を覆った


「俺と親しくしてるせいもあって多くの女性に誘われるんだが…その全てを断り続けたせいでたった噂だな」

ミカエルが申し訳なさそうに言う

まさかのレオンの男色疑惑に私の思考は一瞬停止した


「パーティーに同伴してマリエルに向ける眼差しを見れば皆納得すると思ってな」

「私に向ける眼差し…?」

「愛しくて仕方ない、といった感じか?」

「…頼むからもう口を閉じてくれないか」

レオンが恨めしそうにミカエルを見た


「そう睨むな。俺としても悪いと思ってるんだ。俺を助けたせいでもあるからな」

「そこは後悔してない。そのおかげで地位も得られたしな。でなきゃマリエルに苦労させることになってただろうし」

そんなこと気にしなくてもいいんだけどね…


「そう言ってくれると救われるな。まぁ、別の心配もしてたけどマリエルなら問題なさそうだ」

「別の問題、ですか?」

「これまでレオンが断わってきたご令嬢より格下だとマリエルが苦労するからな」

「お前…」

「事実だろ?お前がどう思おうと判断するのは令嬢たちだ。お前のいないところでどんな手に出るかくらいお前にも想像できるんじゃないのか?」

「…」

レオンが黙り込んだことを考えればそれは事実なのだろう


「大丈夫よレオン。この5年弱私がどんな環境にいたと思ってるの?モニカ以外に味方のいない場所で商会を立ち上げて運営してきたのよ?」

「…」

「嫌味も嫌がらせも食事と一緒、特別なことでも何でもないわ。それに」

「?」

「これからは魔力や体術に頼ってもいいんでしょう?」

「…そういうことか」

レオンはようやくホッとしたような顔をした


「話が見えないが?」

「ふふ…レオン同様、私も努力してきたってことです。レオンの足元にも及ばないけど令嬢から自分の身を守るくらいはできます」

「そこで言い切るとは…流石レオンが選んだ女性ということか?」

ミカエルがそう言った時側近が戻ってきた


「手続きが終わったようだ。ようこそ我が国へ」

「ありがとうございます」

書類を受け取り確認すると白紙の婚姻届けが混ざっていた

思わず側近を見るとにっこりと笑われた

早く出せということなのだろうか?


「どうした?」

「ううん。何でもない」

首を横に振り書類をブレスレットに格納した


「なら行くか。助かったよ」

「たまには用がなくても尋ねて欲しいものだがな」

「…考えとくよ」

そう言いながら私を引き寄せる

次の瞬間私たちは別の場所にいた

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