第15話 着々と…

「マリエルおめでとう!」

モニカが祝ってくれるのは私の18の誕生日だ

卒業まであと半年となった今、私たちの計画は順調に進んでいた


「明日まで、だよね?」

「うん。モニカ、今までありがとう」

「やめてよそういうの。この先一切会えないわけじゃないでしょ」

「勿論よ。落ち着いたら手紙を出すわ」

わたしはそう言って微笑んだ


「でも今日が創立記念日で良かったわね?」

「本当よね。誕生日と一緒ってのは何かあれだけどおかげで手続きに行けるし」

手続きとは独立の手続きの事だ


「じゃぁ行くね」

「元気で、健闘を祈るわ」

「ありがとう」

くだらない事ばかりの学園生活の中で、モニカと過ごした時間だけが楽しい思い出だ

モニカには感謝してもしきれないかもしれない

それでも今は先に進むだけだ


寮を出た私は役所にやってきた

「独立とそれに伴う婚約無効の手続きを」

「…こちらが息女が独立する際の条件ですが」

受付の女性はそう言って1枚の紙を私の前に置いた

そこに書かれているのは2点

『独立後の生計を立てる手段があること』と『当面の生活資金500万コール(1コール=1円)準備していること』だった


「大丈夫です」

「それを証明することは出来ますか?」

「…別室に案内いただいても?流石にこんな場所で500万コール見せろ、なんておっしゃいませんよね?」

何となく腹が立ってそう言ってみるとまずいという顔をした


「申し訳ありませんでした」

「何の謝罪かしら?」

「…失礼な態度を取りました。不愉快な思いをさせて申し訳ありません」

深く頭を下げる彼女にため息をつく


「謝罪は受け取りました。で、見せたほうがいいのかしら?」

「いえ。あなたの対応で準備されていることは理解しましたので」

「そう。じゃぁ手続してもらえる?」

「承知しました。こちらの書類に記入をお願いします」

さっきとは違う用紙とペンを前に置かれる

差支えのない部分に記入し彼女に返す


「すぐに手続きいたします。後ろの席でお待ちください」

「分かったわ」

頷いて待合の為のソファに腰かけた

役所の中は閑散としていて待機している者も少ない


「朝だからかしら?」

そう思いながら様子を伺っていた

すると妙な動きをする者が目に入る


「失礼。ちょっといいかしら」

「は、はい?」

その男は引きつった愛想笑いを浮かべた


「ヨハン様の駒」

「!」

呟くだけで顔を真っ青にした


「このことがヨハン様の耳に入ればあなたの一族がどうなるか保証できませんよ」

「な…?」

信じられないという目を向けてくる男の前にメモ用紙が1枚ヒラヒラと落ちてきた


私は落ちてきたメモを読み上げる

「ロバート・ミューザ27歳、家族は奥さんと2人の子供、ご両親も一緒にお住まいなのね」

「な…んで…」

「あら、ヨハン様から15万コールの借金…それを盾に使われてる感じかしら?」

「…」

ロバートの顔がみるみる色を失っていく


「ロバート、あなたこの役所内の監視をする気はないかしら」

「へ?」

「私が今日来たこと、手続した内容をヨハン様サイドの人間すべての耳に入らないように監視して欲しいの。たった3日でいいのよ。確実に遂行してくれたら20万コール差し上げるわ」

「20…」

その額を聞いてロバートの顔つきが変わった


「ただし、どこかから漏れれば…」

「漏らさないよう監視します。やらせてください」

「よかった。報酬は3日後の結果を見てお支払いするわ。よろしくね」

淡々と言いながら元の場所に戻ろうとしたところで受付の女性がこちらに目配せしてきた


「処理が完了しました」

「ありがとう。その通知は5日後に元の家に届くように手配していただけるかしら?あと、ヨハン様サイドにも伝わらないと嬉しいんだけど」

彼女の前に書類で隠すようにしながら1万コールの金貨を置いた


「喜んでお手伝いさせていただきます。勿論守秘義務も」

「話の分かる方で良かったわ。言葉通り確実な遂行をお願いしますね。病気の妹さんを抱えるローナ・ブライトさん」

「!」

張り付いていた笑顔が崩れた

バレないとでも思っていたのだろうか?


「で、さっきのお願いは聞いていただけるのかしら?」

「も、もちろんです!」

「よかった。この役所の中に私の息のかかった方達がいるの。くれぐれも余計なことはしないでね」

そう言い捨てて役所を後にした


「次は商会ね」

呟きながら町へ向かう


「みんなどんな感じかしら?」

「今日、明日と商品入れ替えを理由に休みにしてますからね。順調ですよ」

側にいた従業員が答えてくれる

実際フロアの商品は半分も残っていない


「マリエル、これが向こうに行く子たちの書類」

「ありがとう。あなたがいてくれてよかったわ。こっちはお願いね」

「任せて。でもよく考えたわよね。明日からは別の商会になるだなんて」

「そうしないとあなたたちが危ないからね。向こうさんにも利益があるから問題ないはずよ」

私はそう言いながらフロアを眺める


「詰めるのは今日中に終わりそうね」

「ええ。すでに詰め終わった2ケースは今日出発する子に渡したわ」

「優秀なスタッフばかりで助かるわ」

「そう言ってもらえるとやっぱり嬉しいものね。後の事は心配しないで。私たちは皆マリエルの味方だから」

「ありがとう。みんなにも感謝してると伝えてね」

その後少し話をしてから商会を後にすると今日は寮には帰らず町の宿に泊まった

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る