第12話 会いたかった人
「モニカ後お願いね」
「了解、頑張ってね」
モニカに荷物を預け、寮によらずに直接町に向かう
向かったのはここ数年で有名になった商会だ
裏口から入ると店員が目配せしてくれる
それに頷いて返すと階段を駆け降りた
一番奥にある扉の前で立ち止まり深呼吸する
そして意を決してノックした
「はい」
返ってきた声に頬が緩む
扉を開けるとずっと会いたかった人の顔が飛び込んできた
「レオン!」
「元気そうで良かった」
レオンはそう言って笑った
会えなかった4年の間に随分たくましくなったレオンに思わず見とれてしまう
「綺麗になったな」
「え?」
「俺の魔力はマリエルより高いんだぞ?」
首を傾げた私にレオンは笑いながらそう言った
「そっか…レオンにはこのままでも本当の姿が見えるんだ?」
「そういうこと。上手く兄貴を遠ざけてるみたいだな」
「おかげで興味は持たれない分、散々文句言われるけどね。悪口はお姉さまの方が酷いけど」
「…辛くはないか?」
心配そうな目が見つめてくる
「ウンザリはするけどちゃんとわかってくれる人がいるから辛くはないよ。前に知らせたでしょう?友達が出来たって」
「ああ。モニカ嬢だったか?」
「そう。クラスメイトで寮も隣の部屋なの。今日も早くここに来たかったから荷物を任せて来ちゃった」
「そっか。そういう相手が出来て良かった」
以前と変わらず表情と一致した言葉
限りなく優しい眼差し
それは何よりも私の心に安らぎを与えてくれる
「家には顔を出したの?」
「いや。今回の帰国は知らせてない。転移の魔力消費の確認も兼ねてるから」
「大丈夫なの?」
「ああ。問題なさそうだ。あと3往復くらい行けると思う」
ニッと笑うレオンに安堵する
「ただ、向こうで兄貴の息のかかった奴が巡回に来るからこっちにはあと30分くらいしかいれない」
レオンがさっきまでと変わり真剣な声音でそう言ったため私はレオンを見て頷いた
時間が限られているなら必要なことは全て済ませなければならない
「朝一で例の手続きを済ませてきた。一応、事情を話して家に通知を出さないと約束してもらった」
「よかった」
「ああ。で、さっきこの商会の件も完了したよ。マリエルが準備してくれてたからスムーズにすんだ」
その言葉に嬉しくなる
「向こうで一時的に任せる手筈も整ってるし、詳しいことは後で担当者からゆっくり聞いてくれ」
「わかった。ありがとうレオン」
「いや、俺が向こうで困ってた時に助けてくれたのはマリエルだけだったしな。それもあって向こうの許可もすぐに下りたんだ」
そう言いながら書類を渡してくれる
それにさっと目を通し問題ないことを確認する
「結構な量を事前に移すのね?」
「ああ。成長分を全て移す感じだな。そうすれば表面上は現状維持で誤魔化せるだろうから」
「なるほど…」
「で、これを渡しとく」
レオンがそう言うと突然目の前にデザインの違うジェラルミンケースが5つ現れた
何が起こったかわからず固まった私を見てレオンが笑う
「俺だって向こうで遊んでたわけじゃない。空間魔法は最初に極めた」
「それっておじさまがずっと望んでる魔術よね?そのためのお父様への援助でしょう?」
「みたいだな。空間魔法の使い手は数えるほどしかいないらしいからな。親父は長年かけて金をドブに捨ててきたってことかな」
そう言って笑うレオンにため息をつく
おじさまが次男のレオンも大切にしていれば望んだモノが手に入っていただろうに…
ただ次男だからと虐げた結果、無駄なお金を払い続け、そして望みの物を持ったレオンに逆に切り捨てられたのだ
「どうした?」
「…おじさまが生まれた順に関係なくレオンを大事にしてれば、望むものは身内から手に入ったのにって思っただけ」
「それはどうかな」
「え?」
思わぬ返しにキョトンとしてしまった
「そうなってれば俺が隣国に行くことも無かったってことだろ?なら空間魔法を極める理由も術もない」
「…そっか…」
確かにその通りだ
レオンが空間魔法に興味を持ったのは私の大切なものを守る為だった
最初に手に入れた空間魔法の付与されたネックレスはレオンの興味をさらに引き付けた
隣国行きが決まった時、レオンは喜んでいた
その理由こそが空間魔法の使い手が隣国に居るからという理由だったのだから
「結局親父は馬鹿を見る運命だったってだけだな」
バッサリ言い捨てるレオンはある意味清々しい
「とりあえずこのケース2つでこの店の1フロア分の荷物が納められる。すべてが終わった時にこれを使えばいい」
「すごい…」
「大したことじゃない。これを何人かに分散させれば検閲でも不振に思われることは無いだろう」
「そうね。このサイズなら普通の荷物と変わらないもの」
どう考えても大量の品物が入っているとは思われない
「準備にかかる時間が節約できるから、こっちで広まるまでの時間も稼げるはずだ。事前の輸送分には小包タイプのものをすでに預けてある。それを何度かやり取りする分には何の問題もないだろ」
「そこまで準備してくれてるとは思わなかったわ…でも本当にありがとう」
「…それは全てが終わってから聞くよ」
そう言って笑うレオンに私も笑い返していた
「最後に1点伝えとくことがある」
「…なに?」
改まった物言いによくない事だと直感が告げていた
「兄貴が決行する日が分かった」
「!」
思わずレオンを見返した
「卒業しても戻るのを許さないと言ってきたけど、来年のマリエルの卒業式の1週間前に一度帰って来いと連絡が来た」
「卒業式の1週間前…本当に直前なのね」
「そういうやつだろ?」
「まぁ…ね」
わかってはいたものの何も思わないわけではない
「ねぇ、卒業してもって、レオンは…」
「笑えるだろう?」
「でもどうやって?監視がついてるんでしょう?」
「買収した。わざと買収せずに残してあるのは俺の帰宅を確認する奴だけだな」
「それが巡回に来る人ってこと?」
「ああ。帰ってきたのを確認するための要員。それがどこからかなんて確認しちゃいない」
レオンはそう言って黒い笑みを見せた
以前は無かったその笑みにこの4年の重さを思い知る
レオンにとったら私以上に優しい環境ではなかったはずだ
「…ねぇレオン」
「ん?」
「計画、ちょっと変えてもいいかな?」
私は頭の中で計算しながらレオンに企みを告げた
「分かった。俺としては問題ない。というより大歓迎だ」
その言葉にホットする
「向こうの準備は全て俺が整えるから、マリエルはこっちの事に集中すればいい」
「…うん」
私はこれまでの、耐えて見せると約束した日からの長い日々を思い返した
意味をなさない無駄な日々を過ごしてきたことにため息が出る
それでもレオンとの約束があったから耐えてこれたのだと改めて思う
「長い間、側にいてやれなくてごめんな」
「それはレオンのせいじゃないじゃない。それに、側にいなくてもレオンはずっと寄り添ってくれてたよ?」
「…」
レオンは突然黙り込む
「レオン?」
「すべてが終わったら…」
「え?」
「…いや。その時に言うよ」
苦笑しながら言うレオンは少し辛そうな顔をした
抱きしめたい、抱きしめられたい、このまま一緒にいたい
そう思いながら、レオンの方に伸ばしそうになる手を何とか抑え込む
それをするのは今じゃない
今それをすればこれまでの時間が全て無駄になってしまうから
「これ以上一緒に居たらそのまま連れ去りたくなるからもう行くよ」
「レオ…?!」
思っていたことを見透かしたような言葉に顔に熱が集まるのが分かる
「フ…お前もそう思ってくれてるってわかっただけで充分だ。じゃぁな」
レオンはこれまでにない優しい笑みを見せてから姿を消した
嬉しさと寂しさが入り混じる
自分でもよくわからない感情を持て余しながら暫くその場から動けなかった
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