第9話 モニカの反応
一人でも自分の事を理解してくれる人がいるというのはとても大きな意味を持つと私は初めて知った
モニカは気づいたら一番の私の理解者になっていた
モニカにとっての私もそう言う感じだと聞いたときには驚いたけどどこか嬉しかった
「…で、その怪我はどうしたって?」
モニカは私の部屋にやってくるなりそう問いただしてきた
「どうって?」
「とぼけないの。それ、明らかに刃物の傷でしょうが」
モニカは私が自分で手当てしていたのを見かねて消毒薬を取り上げた
「沁みるわよ」
「…っ…」
何の戸惑いもなく消毒薬をかけられ痛みが走る
ひっこめようとした手はすぐさま掴まれ手当てが続けられた
「これもヨハン様の信者の仕業?」
これまでに似たようなことが何度か起こっていたうえでの質問だった
「…その方がましかしらね」
「かしらねって…とぼけた言い方してんじゃないわよ!」
怒りのこもったその言葉に思わず笑ってしまった
「何笑ってんのよ?」
「ごめん。何かちょっと…嬉しくて」
私の事をこんな風に気にしてくれたのはレオンだけだったのだから
「…手当はこれで終わり。あとはこれ飲んどきな」
そう言って渡されたのは錠剤
「これは?」
「化膿止め。刃物の傷は侮っちゃダメ」
「…そうだったわね」
以前聞いたモニカの兄のことを思い出し素直に従った
刃物の傷が化膿して高熱で苦しんだ挙句あっけなくこの世を去ったのがモニカの兄だ
「で、結局誰がこんなことを?」
「…姉よ」
「は?なんでシャロン様はこんな手段に出たの?」
クスリを飲むのを確認してからモニカは再び尋ねてきた
「多分、ヨハン様の卒業が迫ってるからでしょ」
「卒業がどう関係するのよ?」
「彼が卒業すれば私に見せつけられなくなるでしょ。だから彼がまだ学園にいるうちに婚約者の座を手にしたいんじゃない?」
これはただの想像だけど、多分当たらずとも遠からずだと思う
「そのためにはマリエルが邪魔だったって?そのために襲ったって言うの?」
「モニカ、落ち着いて」
今にも私に掴みかかりそうなモニカを何とかなだめる
「姉も頭では分かってるはずなんだけどね。私の意思でどうこうできる問題じゃないって」
「…そもそもヨハン様は何で婚約者にマリエルを選んだの?こんなに蔑ろにするなら最初からシャロン様を選べばよかったじゃない」
「そうなんだけどね…」
私はモニカに簡単な経緯を話すことにした
「ヨハン様には2つ下に弟がいて、その弟を心底嫌ってるの」
「弟を心底嫌うって…」
「普通じゃないわよね。その弟は顔合わせの時に私を気に入った。それに気づいたヨハン様は婚約者に私を指名した」
「…嫌がらせのためってこと?そんな事の為にマリエルは巻き込まれたってこと?」
「そうなるわね。もっとも、私はその弟が好きだから全くの無関係でもないんだけど」
そう言うとモニカは悲しそうな顔をした
「思いあう2人を引き裂いたってこと?」
「…引き裂いて苦しめるための…今は準備段階なんでしょうね」
「準備段階?」
「ええ。私たちの婚姻は私が卒業してからの予定なの。弟を苦しめるための駒でしかない私とは婚姻なんて絶対にしない人よ」
「つまり…?」
「私の卒業目前に婚約破棄、でしょうね」
婚約破棄の言葉にモニカが息を飲んだ
「それまでは婚約者に相手にされない者として私を笑いものにし続ける傍ら私を憎む姉を側に置く。ヨハン様にとったら細身の巨乳美人に当たる姉は便利なコマの一つでしょうけど」
「まぁ…相手が山ほど居るものね」
「気に食わない弟を悔しがらせ、自分より弱い立場の私を虐げ、姉の体を貪る。彼にとっては自分が楽しむ最大の方法ってところかしら。残念ながら私は虐げられたところで何とも思わないけど」
「…」
「気になるとすれば…私が虐げられることでレオン…弟が私を守れないと悔しがることくらいかな」
「ヨハン様の思うつぼってことね…最低」
吐き捨てるように言うモニカに苦笑する
「姉は元々ヨハン様に一目ぼれだったから側に置いてもらってること自体を喜んでるでしょうけどね」
「それはそれである意味哀れだけど…」
「そうね。とにかく姉の最大の楽しみは私が悔しがったり悲しがったりすることなのよね。いつから私がヨハン様に思いを寄せてると思い込むようになったのかは覚えてないけど…」
それだけは分からないのだ
私がレオンが好きだと知っていたはずの姉が何故かヨハンを好きと思い込むようになっていた
「そう思い込んでるからこその強硬手段ってことか」
「多分ね」
「マリエルはこの先の事を考えてるの?」
「もちろんよ。婚約破棄して来たら返り討ちにする予定よ」
「え?」
驚くモニカに苦笑する
「この婚約の真相を知った時からレオンと一緒に準備を進めてるの。現在進行形でね」
「一体何を…?」
「それは知らない方がモニカのためよ」
「マリエル?」
モニカは納得いかないという顔を向けてくる
「相手が悪いもの。流石にそこまで巻き込ませないで」
大切な友人だからこそこの先は巻き込めない
「…私にできることがあれば絶対言って。それだけは譲らない」
「ありがとう。その気持ちだけで充分」
それは心からの言葉だった
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