第4話 父の小言

姉が出て行って少しすると父に呼ばれた

執務室に行くとソファで姉が泣いていた


「何が言いたいかは分かるな?」

「…心当たりがございません」

「マリエル…」

私の反応に父は首を横に振る

こんな残念なものを見るような目を向けられるようになったのはいつからだろうか…


「姉を金魚の糞呼ばわりして心当たりがないというのか?」

「…その前の経緯はお聞きになったんですか?」

「経緯など関係ない。その発言が問題だと言っている」

父にわからないように姉は私の方を見ながらニヤリと笑った

父が全面的に自分の見方をしてくれると知っているのだ


「マリエル、お前はいつからそんな卑しい娘になった?シャロンは想い人を諦めてお前に寄り添ってるというのに…」

そんな言葉が出るということは父はまだ気付いてもいないらしい

姉がヨハンに一人で会いに行ってることも、私とヨハンが会う時に一緒に来てコバンザメのようにヨハンにくっついていることも…


「それにヨハン君を蔑ろにしているらしいな?」

「…」

蔑ろにされているのは私です

そう言い返そうと思ったものの姉を見てやめた


ヨハンとの婚約以降、姉が泣いて部屋に閉じこもり続けたせいで、父は姉に負い目を感じ、姉の言うことは何でも聞くようになったのだ

私が何かを言ったとしても父は姉の言葉だけを信じるのは目に見えていた

無駄な時間は使いたくない

それが正直な気持ちだ


「お父様、ヨハン様は私にも気を使って下さる優しい方なのよ?そんな方を蔑ろにする気が知れないわ」

「そうだな。最初は心配したがヨハン君はマリエルを気に入っていってるようだ。むしろ問題はマリエルにある」

ため息交じりに言う父に私は何も返さない


「マリエル、ヨハン君との婚約は覆らない。シャロンの気持ちを考えればヨハン君を大切にすべきなのもわかっているはずだ」

「…」

何とか婚約解消の方法を探すと言っていた父はもういない

当然だ

婚約が決まった3か月後から父はインディペイト家から魔術研究の費用をかなり援助してもらうようになった

それを機に婚約解消の方法を探すのを辞めたのだ

それを知った母は「自分の研究欲の為に娘を売ったのね」と吐き捨て、離縁状を置いて出て行った

あの時、私の未来は絶望的なものになったのだ


「今の…」

「何だ?」

「…今のお父様にとってヨハン様を肯定してくれるお姉様だけが大事だってことがよくわかりました」

「何を…」

父の顔が怒りに歪んだ


は、婚約解消の方法探すとおっしゃってくれた方です。自分の為に娘を犠牲にするではありません」

私はそう言い放つ


「なんて生意気な…」

「そう思われるならヨハン様の婚約者をお姉様に変更して貰ったらいかがですか?」

「そうできるものならとっくにしている!いいか!お前はヨハン君の機嫌を損ねるな!お前に望むのはそれだけだ」

鬼のような形相で父は言う


守ってくれるはずのお母様は私を置いて出て行ってしまった

救ってくれるはずだったお父様はもういない

意地悪でも何かと助けてくれていた姉は私をいじめるのを楽しむようになった


婚約してから外に出してもらえなくなっただけでも辛かったのに、父のその言葉に、本当にすべてを失っていたのだと改めて突き付けられた気がした


この日の夜、手紙をしたためた私は初めてレオンからもらった笛を吹いた

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