第3話 理不尽な文句
あの日以来、ヨハンと会うときはもれなく姉がついて来るようになった
「お姉様が同席するなんておかしいわ。ヨハン様は私の婚約者なのよ?」
「そんなことないわよ。ヨハン様だって何も言わないし、それどころか私を抱き寄せてくれるじゃない」
それが窘める私に返ってきた言葉だった
その日を境に姉は控えるどころか一人でもヨハン様に会いに行くようになった
姉は隠せていると思い込んでいるようなので私は気づかないふりをする
「ヨハン様、本当は私を選びたかったのかもしれないわね。マリエルがいてもずっと私を側に置いてくれるもの」
姉はそうささやいてくる
「マリエルはあんな風に抱き寄せられることもないものね」
続くのは決まってこの言葉
最近、姉を抱き寄せるヨハンの指先が時おり姉の胸に触れ、そのたびに姉が勝ち誇った笑みを私に向けてくる
私としてはヨハンに触れられるなど吐き気がしそうで極力避けたい
でも、ヨハンはその時の私の反応を楽しんでいることに気付いてからは、わざと悔しそうな表情を見せるようにした
婚約者の目の前でよくここまでできるものだと呆れていても、それを表に出したりはしない
結果、ヨハンはニヤリと満足げに笑うのだ
ある日、我が家に来ていたヨハンが帰るなり姉が私の部屋にやってきた
「マリエル、ヨハン様が怒ってたわよ」
「怒る?」
心当たりがなく首を傾げる
「婚約して半年、最近マリエルが俺を立てずに自分を通そうとするって。大切な婚約者を無下にするなんてありえないわ」
姉はそう言いながら私を睨みつける
「自分が婚約者になれないからって私に八つ当たりしないで」
「何ですって?」
姉の目が吊り上がる
最近言い返した時はこんな顔しか見てない気がする
「あんなに素敵な婚約者がいて何が不満なのよ?」
「素敵の基準がお姉様と違うからって私を責めないでよ」
ヨハンの中に素敵な要素が一切見つけられないのは多分私だけのせいじゃないはず
私はそう思っている
「私だってお父様の手前、ヨハン様に気に入られようと頑張ったわ。でもそれを壊すのはお姉様じゃない」
ヨハンと会うときに姉が同席するようになり、ヨハンがその姉を抱き寄せるようになった時点で、私は無駄な努力をするのを止めたのだ
「私は何も…」
「してないって言える?ヨハン様と会うときも金魚の糞みたいについてきて?」
「金魚の糞ですって?!」
気になるのはそこなのかとため息をつく
「それ以外の何だって言うのよ?逆の立場で考えてみたらわかるでしょう?自分が婚約者に会うときに私が同じようについて行って、その腕にくっついてたらどう思うの?」
「それは…そうなってみないとわからないじゃない」
「はぁ?」
呆れたように返す私に姉の顔が怒りに染まる
「姉に向かって何て言い草…このことはお父様に報告するから!」
捨て台詞のようにそう言い捨てて姉は飛び出して行った
これももう何度も繰り返されてきたことだ
この後私は父に呼び出されるのかと思うとうんざりした
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