第2話 諦めないシャロン

婚約が決まってから週に1度、私はヨハンと共に過ごす時間を持たされていた

「あらマリエル、今日も行くの?」

「お姉様…」

目が吊り上がり、口元にだけ笑みを浮かべる奇妙な顔の姉

ヨハンと会う日は必ずこの顔で話しかけてくる


「今日はヨハン様がおいでになるの」

「まぁ、そうなの?そういうことは早くおっしゃいよ」

姉は嬉しそうに笑いながら自室に引き上げていった

そのすぐ後にヨハンが到着した


「やぁ僕のマリエル。今日も可愛いな」

「ありがとうございます」

心のこもっていない言葉に愛想笑いを浮かべて応接室に通す


「これを君に」

ヨハンはそう言ってラッピングされた小箱をテーブルに置いた


「これは?」

「昨日町で見つけたんだ。きっと君に似合う」

「…ありがとうございます」

お礼を言って中を確認してもいいか尋ねようとした時扉が勢いよく開いた


「ヨハン様いらっしゃい」

姉は満面の笑みでそう言った


「やぁシャロン、君も相変わらず可愛いね」

「まぁ、可愛いだなんて」

姉は嬉しそうにそう言いながら迷いもなくヨハンの隣に座った

近すぎる距離にヨハンは何も言わない


「今日は何をしにいらしたの?」

「マリエルにプレゼントを持ってきたんだ」

「マリエルに…そうよね。婚約者だものね…」

そう言って涙を浮かべる姉に私はウンザリする

この後の展開はもうわかり切っていた


「…マリエル…」

ヨハンの言葉に私は無言のまま頷いた


「シャロン、マリエルにはまた今度見つけて来るからこれは君に」

その瞬間涙はどこに消えたのか…


「嬉しい!ありがとうヨハン様」

姉はそう言いながらヨハンに抱き付いた

妹の婚約者に、その妹の目の前で抱き付く姉

姉に抱き付かれてまんざらでもない婚約者

私は目の前で繰り広げられる茶番のような光景を見ながら、2人が喜ぶような悔しい表情を浮かべて見せる


「そんな顔をしないでマリエル」

「…」

「心配しなくても僕の婚約者は君だから」

だから何なのだと言い返したくなるような言葉に何とか笑顔を浮かべる


「私にもヨハン様のような婚約者がいればいいのに」

「君ならすぐにいい人が見つかるよ。マリエルもそう思うだろう?」

「…ええ」

私は扇子で口元を隠して頷いた


「それまでは僕で良ければ話し相手くらいは引き受けるよ」

「まぁ、本当ですの?」

「勿論だよ。婚約者の大切なお姉さんだからね」

そう言ったヨハンは私の方を見て微笑んだ


「嬉しいです。じゃぁ、今度から私もご一緒してもよろしくて?」

「もちろん構わない」

姉は最近膨らみ始めた胸をしきりに押し付け、それにこたえるようにヨハンの手は姉の背をなでている

はしたない

心の中でそう呟いてしまう


「聞いた?マリエル、ヨハン様は本当に素敵な方ね」

「そうですね」

微笑みを浮かべて見せる


この日をきっかけに、会うたびに2人の接触はエスカレートしているような気がした

そのことに気付いてから私は無表情を装う癖がついていった

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