第7話 それぞれの夜

葵が帰った後、レオンと瑞希は二人でホテルの最上階にあるBARに来ていた。


「レオン、葵とのデートはどうだった?」


「一緒に朝日を見れて良かったよ。とても綺麗だった。」


「そっか。」


瑞希はクスクスと笑った。


「ミズキ?どうかしたのか?」


「いや・・どっちが綺麗だったのかなって思って。」


「どっちも・・だよ。アオイは美しくて強い。憧れるよ。」


「Mr.リュウの事をいってるの?」


「それもある。だけどアオイの内面からの強さは簡単に身に付いたんじゃない。どうしたらアオイみたいに強くなれるんだろうな・・」


「レオン・・」



そこへ、部屋にいた従者の一人が近付いた。


「レオン王子、本国からシュヴェルツ部隊が投入されたようです。」


「シュヴェルツ部隊が!?」


瑞希の顔色がサッと変わった。


「とうとう軍部を投入してきたか・・・。」


(シュヴェルツ部隊っていったら少数精鋭の暗殺部隊だ。その部隊を知る人間も限られる。)


瑞希は不安そうにレオンを見たが慌てる素振りは一切ない。


「レオン王子、本国に帰国しましょう!これ以上は危険です!」


珍しく語気を荒げて言う従者にレオンは冷静に言う。


「まだ、日本ですることがあるんだ。本国に戻った所で一緒でしょう?だったら僕はこのまま日本に居たい。」


「ですが!王子に何かあっては・・」


「大丈夫。アオイが居るじゃないですか?それに僕も・・いや俺も強くならないといけないですからね。」


従者はそれ以上何も言えなかった。

レオンの瞳に強い意思が宿っていた。





********





BAR HARBORバー ハーバーの扉を開けてカウンターに座る。


「カミカゼをお願い出来ますか?」


「カミカゼですね。少々お待ち下さい。」


注文を受けるとマスターは手早く酒を作ってグラスを葵の前に出した。


「どうぞ。」


「ありがとうございます。」


葵は一気に飲み干すとグラスを置いた。


(レオン・・何か背負っているなら話してほしい。一人で抱え込むのは辛いでしょう?)


でも、無理に聞きだす気はなかった。


(誰でも抱えているものがある。それを無理矢理聞いた所で信頼は得られない。)


ただ、レオンの冷静さだけが気になっていた。

ため息を一つついた。


「もう一杯いかがですか?」


マスターが声をかけてくれる。


「じゃあ、同じものを。」


(日本ここじゃなかなか動きづらいな。協力者も居ないし・・・。)


そんな事を考えていると、マスターが新しいグラスを出してくれた。


「・・・失礼ですが、世良葵さんですよね?」


マスターがおもむろに聞いてきた。


(何故、私の事を?まだ、来日して二ヶ月しかたっていないのに。)


「・・・。」


「そう怖い顔をしないで下さい。藤堂さんから言われてるんです。何かあったら貴女に協力してやってくれと。」


「藤堂さんに・・?」


(そういえば、前にここで藤堂さんと会ったとき『融通がきく』って言ってたけどそういう意味?)


「でしたら・・・。」





********





自分の気持ちに気が付いた司は落ち着かないでいた。


(俺が、彼女の事を好き・・?)


昼間の樹の言葉が甦る。


『彼女に特別な感情があるならやめておけ。』


初めて見たときから惹かれていた。

胸の高鳴りも全て説明がつく。


(樹は何であんな事を言ったんだろう?)


普段の樹は軽々しくそういった事を言う人間ではない。逆に司に『恋愛しろ』としつこく言ってくる程だ。

しかし、自分の気持ちの大きさに戸惑いを感じながらも葵の事を考えずにはいられなかった。

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