第6話 優しい嘘

「レオン王子!どこに行っていたんですか!?それにアクシデントって何があったんです?」


樹がレオンと瀬名の間に割って入る。


「君達来ていたんですか。ちょっと朝陽を見に行っていただけですよ。アクシデントといってもたいしたことではないです。私もこうして無事ですしね。」


司は樹達のやり取りを遠くに聞いていた。

間近で見る葵の深い瑠璃色の瞳により一層惹かれていた。


「それで?こちらの女性は?」


樹は葵を一瞥してレオンに尋ねる。


「・・・。アオイは日本の僕の友人です。日本を案内して貰っているんです。」


「友人?」


「そうですが何か?」


「でしたら、私達にも紹介して頂きたいですね?」


「何故、私の友人を貴方達にっ・・・」


葵はレオンを制する。


「いいの、レオン。自己紹介が遅れました。私は、世良葵といいます。レオンが来日中の案内をすることになっていますので宜しくお願いします。」


「・・・。世良さん、我々が警察関係者だと思った理由は?」


「レオンから聞いていたんです。警察庁の方が警備の事で来られていたって。」


「そうですか。レオン王子とは付き合いは長いんですか?」


「ええ、長い付き合いですよ。」


淀みなく答える葵にレオンはホッとした。



「・・・。ところで貴方達の雇ったボディーガードが居ないようですが?」


「駐車場で別れました。今日はもう外出はしないのでね。ですので、貴方達も今日はお引き取りを頂いて大丈夫ですよ?」





レオン王子の部屋を後にした司と樹はロビーに向かっていた。

葵を見てから一言も発しない司を横目に見ながら樹が言った。


「司。彼女はやめておけ。」


「えっ?」


「公園に居ただろ彼女。」


「お前、気付いてたのか?」


「当たり前だろ。レオン王子はああ言ってたが・・・友人ではないと思う。」


「どうして・・?」


「・・・勘だ。ただのな?だけど、俺はお前が傷付く所は見たくない。彼女に特別な感情があるならやめておけ。」


「・・・・。」


黙り込む司を見てため息をついた。


「とにかく、今日は一度警察庁に戻ろう。俺も調べたい事があるしな。」





********





司達が引き上げた後、瑞希は心配そうにレオンに言った。


「アクシデントって、本当は何があったんだ?」


「ミズキ。大丈夫。ただ後を付けられただけだ。それも、アオイが気付いてくれたから大丈夫だ。」


「レオン・・・」


瑞希の瞳が不安そうに揺らいだ。

レオンと瑞希のやり取りを見ていた葵は静かに言った。


「とりあえず、尾行は撒けたけどホテルここが特定されるのも時間の問題だと思う。」


「そんなっ!」


瑞希が不安そうに呟く。


「だから、場所を変えましょう?ここは人も多いし、関係ない人を巻き込むかもしれないから。」


「場所を変えるって?」


「大丈夫。ちゃんと、別の場所を用意してあるから。」




話し合いが終わると葵はレオンに近付いた。


「レオン。さっきはありがとう。」


「いや、勝手にごめん。ただ、アオイが僕のボディーガードだと知られたくないかと思って・・。」


「そうね・・。いずれはバレるだろうけど時間稼ぎにはなるから。とにかく、明日には場所を変えたいから準備をしてくれる?」


「ああ、わかった。」





********





警察庁に戻ってきた樹は『世良葵』について調べていた。


(彼女には絶対『なにか』ある。司が傷付く事だけは避けたい。)


普段司の事をからかってはいるが大切な存在である事に変わりはなかった。





司は警察庁に戻っても、仕事が手につかないでいた。


(彼女が、レオン王子の友人?そんな偶然あるのか?でも・・・。)


葵のあの瞳を思い出していた。

儚さの中にある力強さにどうしようもなく惹かれる自分がいた。


(俺は、彼女の事が・・『すき』なのか・・?)


司は自分の中にずっと燻っている感情に気付いた。

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