第5話 出逢い

「アオイ?さっきから同じ所を走っている気がするんだけど?」


「つけられてる。二台後ろの車が東都海浜公園からずっと付いてきてる。」


「えっ?・・・。」


レオンは然程驚いた様子もない。

葵はレオンをちらりと見た。


「・・・。このまま、ホテルに帰る訳にもいかないか・・。」


葵はアクセルを踏み込んで車と車の間をすり抜けていく。

後続の車も付いてこようとするが、混雑しているのでなかなか追い付けずにいた。




数分後、ルームミラーで後方を確認すると後を付けてきていた車はもういなかった。


「とりあえず、まけたみたい。レオン大丈夫?」


助手席のレオンは至って冷静だった。


「ああ、大丈夫だよアオイ。」


「そう。・・・念の為もう暫くホテルに帰るのはやめておこうか?」


葵は近くの立体駐車場に車を停めた。

運転席から降りると、グーっと伸びをして自動販売機で缶コーヒーを買って戻ってきた。


「お口に合うか解らないけど。」


「ありがとう。」


レオンは葵が差し出した缶コーヒーを受け取った。


「・・・。想定内って感じ?」


「えっ?」


「こうなる事。ただのボディーガードって訳じゃないみたいね?」


「・・・。」


黙り込んでしまうレオンを見てクスッと笑う。


「まぁ、いいわ。最初からそんな気はしてたから。レオンにも色々あるんだろうし。話せるようになったら話して?」


「ごめん。でも、アオイを信用していないって事じゃないんだ。」


「いいのよ、わかってるから。必ず貴方の事は守るから。」


葵がレオンの顔を覗き込むと一瞬金色の瞳が揺らいだ。





********





午前8時、帝都ホテル。

司と樹はレオンの部屋を訪ねていた。


「どういう事ですか!?居ないって!」


樹が従者の一人に詰め寄っていた。


「レオン王子は外出しています。」


「こんな朝早くからですか?」


「ええ。」


「何処に行ったんですかっ?」


「朝陽を見に行くと仰ってましたが、何処に行ったかはわかりませんね。」


黙って樹と従者のやり取りを見ていた司が割って入った。


「あなた方がここに居るという事は一人で外出したって事ですか?」


「いいえ。我々の手配したボディーガードの方がご一緒ですので心配はありませんよ。」


「ボディーガードっていっても、所詮は民間の人間でしょう!?安心なんて出来ませんよっ!!何かあったらどうするんです?」


樹が声を荒げた。

しかし、従者達は冷静だ。


「そんな事はありません。大丈夫です。」


「我々よりも信用しているって事ですか?」


「・・・・。」


「とにかく、レオン王子が戻るまで私達も待たせて頂きます!」


「お好きになさってください。」


話が終わると、従者達は各自の仕事をしはじめた。

樹は納得がいかない様子で苛立っていたが司は冷静だった。


「少し落ち着いてください。紅茶でもいかがですか?」


一人の従者がテーブルにティーカップを置いた。


「ありがとうございます。貴方も日本語が堪能なんですね?」


司がソファーに座りながら聞くと、従者はクスクスと笑った。


「ええ、私は日本人ですからね。瀬名瑞希せなみずきといいます。レオンに日本語を教えたのも私なんですよ。」


「レオン?」


「私とレオンは友人なんです。友人兼日本語教育係として使えてるんですよ。」


「だったら、何故レオン王子が我々の介入を拒むのかも知っているんですよね?何故なんですか?」


「その件に関しては私からお話は出来ませんね。申し訳ありませんが。」


その時、部屋のドアが開きレオンが入ってきた。


「レオンお帰り。遅かったから心配したよ?」


「ミズキ。ごめん、ちょっとしたアクシデントがあってね。」


レオンに続いて女性が入ってきた。

司はその女性を見ると息をのんだ。

公園で見掛けた女性がまさに今目の前に居たからだ。


「貴女は・・・。」


「やっぱり、貴方達は警察関係者だったんですね・・・。」


葵は司を見て言った。

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