35話 【呼び出し手】vs 四大皇獣
神獣四人の魔力に引かれてやって来たというベヒモスを倒すため、俺たちは王都の外へ出ていた。
……と言っても、閉まりかかっていた門から強引に出ただけなのだが。
それからクズノハが、一旦二手に別れようと提案して来た。
ベヒモスも馬鹿じゃない、固まっていたら先制攻撃を食らう可能性があると。
そんな訳で今現在──
「凄いよお兄ちゃん!
──俺は爆速で飛ぶローアの背の上にいた。
夜空が綺麗だなぁとか思うが、そんなことを口に出す余裕はない。
ローアの力である程度吹き付けてくる風は防がれているものの、それでも気を抜けば振り落とされてしまいそうなくらいの速度が出ている。
「俺とローアで足止めって話だったけど、肝心のベヒモスは……あれか!」
『GUUUUU……!』
ローアの背から少し顔を上げ見れば、すぐ先には大型……いや、森の木々を踏み潰して進む超大型の魔物の姿があった。
全身は赤い甲殻に覆われ、月明かりを反射して暗く輝いている。
四肢は大樹を幾重にもまとめたほどの太さで、木々も岩も問答無用で粉砕して進んでいる。
その姿はまるで、巨大な亀と四足歩行の獣を混ぜ合わせたかのようだった。
「デカいとは聞いてたけど、王都の城壁並みの体高って最早動く要塞だな!?」
こんなのと一対一でやりあったら、いくら神獣でも無事ではすまないこと間違いなしだ。
それでもローアは臆することなく言い放った。
「要塞でも何でも、わたしのブレスで壊しちゃうんだからっ!」
ローアは大きく嘶いて、口腔に光を充填してブレスを放った。
闇夜を切り裂く閃光がベヒモスに炸裂し、真紅の甲殻の上で小爆発が起こる。
『GUOOOOO!?』
上空からの奇襲を察知できなかったベヒモスが大きく唸る。
そして小爆発で生まれた煙が晴れ、ブレスの着弾点が見えたものの、
「肉まで届いてないのか……!?」
「嘘!?」
ベヒモスの甲殻の一部に穴が開いた程度で、出血は見られなかった。
ローアもまさか自分の攻撃が大したダメージになっていないとは思っていなかったのか、驚いている様子だった。
「こりゃ神獣並みって噂は間違いなしか! ローア、旋回してくれ!」
「分かったよー!」
一点にとどまって滞空していたローアは、俺の声に従いベヒモスの周囲を回り出した。
また、初撃で俺たちの存在を察知したベヒモスは、全身の甲殻を逆立てるようにして開いた。
甲殻が開いた箇所は、ぽっかりと穴が空いていた。
「……何だ?」
『GUOOOOOO!!!』
「お兄ちゃん伏せてっ!」
ローアが叫んだのと同時、ベヒモスが甲殻に開いた穴から砲丸のような何かを次々に射出してきた。
それらは一発一発が馬ほどもあり、さしものローアでも食らえば墜落は必至だ。
「くぅっ、この……!」
ローアは曲芸のような動きで全て回避していくが、こちらがいるのはベヒモスから遠く離れた上空だ。
まさかここまで届く遠距離攻撃手段があるとはと、冷や汗が頬を伝うのが分かった。
そして、俺たちを狙ってベヒモスが体内から放っている代物の正体に感づき、思わず声を上げた。
「この感じ……まさかこれ全部魔力の塊か!?」
「それにベヒモスが食べた岩も混じってるから、当たったら本当に墜ちちゃう……!」
ベヒモスの魔力弾とも形容できる攻撃に加え、どんな時でものんびり屋だったローアの焦り声もあいまって、俺は状況の悪さを悟った。
この魔力弾の嵐がいつまで続くか分からないが、ローアの体力と回避に割ける集中力にも限界があるだろう。
……ならば!
「ローア、飛び降りて俺が直接斬りかかる! 出来るだけ近づいてくれ!!」
「ダメだよ!? もしお兄ちゃんに当たっちゃったら……!」
ローアは必死そうに俺を止めてきたが、ここは強く押さないといけないところだ。
「ローア、よく考えてくれ。このままじゃ二人一緒に地面へ真っ逆さまもあり得るし、逃げようとしたって逃がしてくれる手合いでもないだろ。だったらベヒモスが魔力弾を放ってくる部位を壊すしかない……違うか?」
「それは……」
ローアだって分かっているのだ。
このままじゃジリ貧、かと言って逃げようと背を向ければその瞬間に集中砲火を食らう可能性も大きいと。
ローアは数秒黙り込んでから、絞り出すように言った。
「……分かったよ、お兄ちゃん。でも絶対の絶対、わたしの背中に戻ってきてね!? 絶対だからね!!」
「ああ、そのつもりだ。だからローア、頼んだ!」
「いっくよーっ!」
ローアは月明かりを背に一旦天高く舞い上がり、それから一気に急降下した。
『GUUUUU!!!』
ベヒモスの魔力弾が俺たちを狙うが、ローアの急加速に対応しきれず全てギリギリで外れていく。
そしてローアがベヒモスにある程度接近したところで、俺はローアの背から飛び降りた。
同時、指輪を外して神獣の力を全解放する。
──乾坤一擲!
「ハァッ!!!」
長剣から爆炎を放出した反動で飛び退き、ベヒモスの魔力弾を回避。
次いで正面に展開したマイラの水盾で魔力弾の軌道を辛うじてずらし、俺は神獣の力で強化された肉体の恩恵もあって、俺は無事ベヒモスの体表に着地した。
『GUOOOOO!!!』
背中に落ちた異物である俺を振り落とそうと、ベヒモスが魔力弾の放出を停止して体を大きく揺らす。
だが……魔力弾の放出が止んで、逆に好都合だ!
「外は硬くても、中はそうでもないんじゃないか?」
俺は長剣を振り上げ、展開された甲殻の内部に刃を突き入れた。
同時、フィアナの能力を可能な限り解放してベヒモスを体内から焼き焦がす!
『GGGGGGGG!!??』
爆炎に肉を焼かれ、体内にある魔力弾の生成部を焼かれたベヒモスが苦悶の咆哮を上げた。
俺はその隙を逃さず、間髪入れずに長剣を振るって他の魔力弾噴出部にも火炎弾を叩き込んだ。
『GUOOOOOO!!!』
「くっ……!?」
魔力弾の生成部を焼き失ったベヒモスは怒ったのか、体を回転させて背にいる俺を押しつぶそうとしてきた。
しかしその時既に、俺は飛来してきたローアの背に飛び乗っていた。
「悪いローア、助かった!」
「気にしないで! でもお兄ちゃん、もう【呼び出し手】ってよりもドラゴンライダーって感じだね。王都の危機に、竜に跨り命がけで魔物と戦う英雄の姿あり……なーんちゃってね!」
茶化したように言うローアに、俺は苦笑した。
「英雄はともかく命がけなのは間違いないな……!」
何にせよベヒモスの魔力弾はギリギリ止められたが、堅牢な甲殻はそのままだ。
まだまだベヒモス攻略には手間がかかりそうだと、俺はローアの背で次の策を練るのだった。
世界最強の神獣使い 八茶橋らっく @YASAHASHI
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