9話 【呼び出し手】と神獣の相性
せっかく来てくれたマイラをそのまま帰すのも悪いので、一緒に朝食でもどうかと誘ってみたところ。
マイラは人間の食事は気になると、興味津々といった面持ちで小屋に入って来た。
「すぐに朝食を支度するから、マイラは椅子に座って待っててくれ」
「あ、わたしも手伝うー!」
俺は山菜や持って来ていた干し肉、それにまだ残りのあるパンなどを取り出しローアの手も借りながらてきぱきと朝食を作っていく。
その様子を見ていたマイラは、ふと不思議そうにしながら話し出した。
「こんな山奥に住んでいるのに、たくさんの食材が揃っているのね。……というより、どうしてあなたはこんな山奥で暮らしているの?」
「やっぱり気になるよな……」
というより、ローアやフィアナにもこう聞かれたあたり神獣から見ても俺が山奥暮らしなのは大分不思議なようだった。
俺は朝食の準備をしながら前にローアやフィアナに話したように、マイラにもことの顛末を話した。
街を追い出されて、ローアやフィアナと出会ったこと。
それで今は、生活を豊かにするために畑も作ろうと思っていてそのために井戸が欲しかったのだと。
「……って事情があったんだ。だから井戸を作ってくれたマイラにはとても感謝してるよ。マイラに助けてもらえなかったら、この先かなり苦労してたと思うから」
「今まで大変だったのね……。でもだからこそ、あなたの力になれてよかったと思うわ」
俺の話を聞いてから、マイラは少し悲しげな表情になっていた。
あまりしんみりした話はするもんじゃないなと、俺は後ろ頭をかいた。
「ローアもフィアナもだったけど、マイラもそんな顔しないでくれよ。もう過ぎたことで、今は皆と力を合わせながらやってるんだからさ」
「そういえば、さっきの話に出てきた不死鳥のフィアナさんって今はどこに……?」
言われてみれば、今朝はまだフィアナが起きているところを見てない。
「あー、それなら多分」
まだ寝てるんじゃないか、と言おうとした途端。
「お、往生しろぉぉぉっ! ケルピー!!」
ドアを蹴り破る勢いで、寝間着のフィアナが勢いよく居間に入ってきた。
しかも手には昨日使った農具を持っているオマケ付きだった。
……何だろうか。
フィアナ本人はマイラに妙な警戒心を持って居間に来たのは言動から分かった。
しかし着ているものと持ってる武器(?)があまりにちぐはぐで締まっていなくて、横にいるローアが「ぷぷぷっ」と吹き出していた。
「朝からはしたないよ、フィアナ。そんなんじゃお兄ちゃんに嫌われちゃうよ?」
「えっそれは嫌だ……じゃなくて! ご主人さま、何でアタシらの家に朝っぱらからケルピーがいるのさ!?」
若干泣きそうなフィアナは、俺に猛抗議して来た。
俺は窓から見える井戸を指差して、フィアナに言った。
「うーんと、井戸を作ってもらったお礼に朝食をと思って」
フィアナは井戸を見て状況を素早く理解したのか「ケルピーなら一晩で十分か……」と落ち着いたように呟いた。
だが、すぐに慌てたように農具を構え直してマイラに向かい合った。
「でもよりにもよって水棲馬のケルピーって!? 不死鳥のアタシと相性最悪じゃんか! それにドラゴンといい、ご主人さまはアタシの天敵を引き寄せすぎだっ!!」
「そんなこと言われてもな……。でもフィアナ、マイラに暴れるつもりはなさそうだから落ち着いてくれ。それと、すぐに朝食ができるから着替えてくること、いいな?」
「そう、彼の言う通りよ。わたしの一族は、確かに炎を操る不死鳥族とあまり仲が良くないかもしれない。でも、わたしだって力を貸した【呼び出し手】の前で暴れるほど愚かではないわ。それは本来の力を解放していないあなたも、同じ考えではなくて?」
落ち着き払った物言いのマイラに、フィアナはタジタジにされてしまった。
「うっ、ううぅ……。そりゃアタシだってご主人さまに怪我させたくないし……」
フィアナはトボトボとした足取りで、着替えに部屋へ戻って行った。
居間からフィアナが出て行った後、マイラはくすりと微笑んだ。
「あの子、素直な不死鳥ね。感情と一緒に力を火山みたいに噴火させない不死鳥ってとっても稀なのよ」
「そうなのか……?」
生まれてこのかた、当然ながらフィアナ以外の不死鳥は見たことがない。
だからフィアナ以外の不死鳥については、どうにも想像し辛かった。
「【呼び出し手】さん。ケルピーのわたしがこう言うのも少し変だけれど。あの子のこと、ちゃんと大切にしてあげてね?」
マイラの言葉に、俺は即座に頷いた。
「それは当然。フィアナは俺のために、わざわざ海まで渡って力を貸しに来てくれたんだから」
フィアナは明るくて、それでいてよく気も遣ってくれている。
だからこれから先も大切にしていきたいと思っているし、ずっと一緒にいられたらと思う。
……と、決意も新たにみたいなことを考えていたところ。
「……むーぅ……」
目を細めて物言いたげにしているローアが俺に張り付いてぎゅっとして来たので、俺は「もちろんローアのことも大切だから、拗ねないでくれよ」と苦笑気味にローアを撫でてやった。
その光景を、マイラは微笑ましく眺めていたものの、
「海……ね」
小さな声でマイラが呟いた言葉が、少しだけ気になった。
マイラの言葉には懐かしいといった雰囲気が含まれているような、そんな印象があった。
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