第38話 空襲の貴族街
空が黒くなっている理由は鳥人族が怪鳥を連れてきているから。
ケツァルコアトルスやペラゴルニスなどの大型翼竜や大型鳥類が、空を埋め尽くしているから。
本来ならば、こんな遠くまで飛んでくることは不可能である。
だが、ハーピーは元々風の精霊。
ハーピー族がいれば上昇気流を発生させることが出来る。
ちなみに鳥人族はハーピー族、セイレーン族の二種族いる。
ただ、オスのハーピー、セイレーンは確認されていないので、その実態は未知である。
マーマンやマーメイドも、人面魚が幼魚という隠し事があるだけに、彼女たちに何か秘密があってもおかしくはない。
鳥人族の武器は当然空を飛べること。
ただ、いくら空を飛べても、海中では無力だ。
では、なぜ彼女たちが厄介だったのか。
それは彼女たちが生息している地域が関係している。
活火山が聳り立つ岩山で出来た大地は、地熱の影響で常に気温が高く、トカゲや恐竜の類が生息している。
鳥と恐竜は同じ祖先を持つ。
だからという訳ではないが、彼女たちはサラマンダーやリザードマン、恐竜が魔物化した、海竜類を使役できる。
因みに、そちらはセイレーンの使役能力。
船乗りを誘惑し、海難事故を起こす力、——その力はマーメイドと重複する。
それが故にマーメイドの力が相殺された。
ゼバリアスの乱で一番厄介だったのは、その力だった。
——そして今、マーメイドはここにいない。
□□□
【
紫紺の髪の美女が、焦った顔で魔法を唱えた。
「メンマ、今の私はこれくらいしか出来ない。ミハエル様の加護が消えた私は、あらゆる力を代償に人間に生まれ変わった母と同じ。小魔法縛りの貴方にも劣る力しかない。だから私が貴方の足になる。……早く、学校に行きましょう。」
彼女は憔悴しきった顔をしているが、それはアリアも同じ。
三百年間の平穏の立役者、ミハエルの加護が王国から消えたのだ。
故郷が心配だろう。
『分かった。もう、俺も身を隠す必要ないだろうしな。それとアリア————』
「分かってる。自領に戻った時、こっちより魔法が使いやすかった。それにメンマが先に教えてくれてたから。あたしの領地が海賊に最も狙われる。そのことも前にちゃんと伝えてきた。勿論、空から来るって伝えてはいないけど、他の領地よりは多分、ある程度は持ち堪えてくれる。」
その言葉に人面魚は苦笑いをした。
これは、あの時も感じたことだ。
先を見て、領地改革を選択したこと……ではない。
——少女がもっと幼かった頃の話だ、きっと彼女は覚えてもいないだろう。
5年前。当時のアリアは祖父と共に港を歩いていた。
何故、あのタイミングで歩いていたのか、彼女は覚えていないだろう。
「アリア。ここが港じゃが、あまり良いものではないぞ。第一、臭いが……」
アリアは海の臭いを嫌っていた。
ただ、あの日だけは早朝から祖父を連れて出掛けていたのだ。
そしてスッと市場の水槽に入っていた人面魚を指で差した。
すると、祖父はこう言った。
「アリアが自分から欲しがるのは珍しい……。君、この魚は売り物かね」
「へ!?……えと、マードック様?これは売り物じゃなくて、処分品です。顔が人間みたいに見えることから、人面魚と呼ばれる呪われた魚です。」
その言葉を聞き、少女の手を引き再び歩き出す祖父マードック、ただ彼の腕はびくともしない。
「あれが欲しい……」
人面魚が初めて少女の声を……、当時、幼女だった彼女の声を聞いた瞬間。
少女は、まるで全てを見透かしたような目で人面魚だけを見つめていた。
そして彼女はマーマンという言葉も知らないのに、マーメイドという言葉も知らないのに、人面魚という言葉も知らないのに、
当時のリューヘーは水槽の中で震えた。
マーマンの幼体がこんな幼い少女にも知られていると背筋を凍らせた。
勿論、家で飼われ続けているうちに、あれはただの偶然だったと思うようになったのだが。
——でも、今はそうではないと分かる。
彼女はやはり不思議な力を持っている。
それが未来視なのか、危機察知能力なのかは分からない。
「メンマ、私が道を開くから!」
知っての通り、デリンジャー伯爵との戦い、——彼女はその気になれば、伯爵を殺せた。
ただ、平和を愛する少女には、伯爵を傷つけた後のことを考えて、それが出来なかった。
——本当にそれだけ?
少女は迫り来るリザードマンの首を刎ねる。
服の替えはたくさんアミエルから貰ったから、服の汚れを気にする必要はない。
胸元腰あたりまで伸びた金の絹糸のような髪が地面と平行になるほどの速度、いや、金の雷光の方が相応しい、
それほどの速度で徘徊を始めていた爬虫類系モンスターの死体の山が築かれる。
使い慣れた筈のない、デリンジャー家に放置された細身の剣は銀の閃光と呼ぶに相応しい。
「すご……いわね。まさか、こんなに戦えるなんて……」
「リザードマン程度ならな。だが、魔法が飛んで来たら状況が異なる……」
その瞬間——
【
火山地帯に生息する
【
すると白い髪の少女が両手を翳していた。
「俺たちが、貴族街の未来を守ります!」
白と赤の髪の兄妹は、豪邸の門付近で待っていたらしい。
伯爵家が貴族街の大部分である為、メンマの呼びかけに即座に呼応したのだろう。
「既に各地の領主への伝令を飛ばしています。私たちがこの国を守るんだから!」
伯爵までなら中魔法の全てが使えるとあって、彼らが味方につけば千人力かもしれない。
実際、彼らの指示で他の貴族も動き出している。
「ロザリアちゃん、ジャスティンさん、ありがとう!メンマ、行こ!!」
アリアが世界を救う流れが用意されていたらしい、——フラッシュモブのように次々に家から飛び出してくる学徒たち。
彼らの家族も自領を守りに行くのかもしれない。
「凄い……わね。たった二ヶ月の交流で、ここまで変わったの?」
無駄に広い伯爵家周りを抜けると、今度は貴族のために用意されたショッピング街が見えてくる。
「あ、貴方?キャァァァァ!」
叫び声が聞こえる————
そして、その場には多くの石像が並んでいた。
つまりは凶悪モンスター『コカトリス』の石化の息。
「嘘……、こんな化け物がいるなんて……」
「アリア!そいつには絶対に近づくなよ!」
「で、でも!!」
あの時よりも本気で来ている。
つまり鳥人族は本気で戦争を仕掛けてきている。
だが……
ヒュン
その瞬間、空気を切り裂く音が聞こえた。
「ここは俺に任せてくれ!」
茶髪の癖っ毛の少年の声。
元々、その為に存在していたのだ。
ここで弓兵様が登場する。
バードウォッチ家は本来、対鳥人部隊。
「カシム君!」
「俺が出来るだけここは守る!」
【
そして水の刃がリザードマンとサラマンダーを蹴散らす。
あの少女もアリアに出会ったことで変わった。
「私も!カシム君とここを守るから!」
緑色の髪の少女が、リリル・グラスホッパーまでもが、戦いに身を投じた。
全てはアリア・フィッシャーマンの道を空ける為
「みんな……」
「走れ、アリア!それからアミエルも!」
「分かっているわよ!」
とにかく走る。
走るしかない。
そして今、メンマにしか出来ないことがある。
手も足も出ない彼に出来ること。
——それは、アリアを絶対に振り向かせないこと
おそらく後ろは今、地獄と化している。
カシムやリリム、さらに伯爵家がいくら頑張ったところで、今のままでは間違いなく人間が負ける。
————いや、すでに負けているのかもしれない。
このエルセイラムという王国は人間の為の国ではないのだから
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