第15話 少女の初登校
『ちんちんが!ちんちんが!』
「はぁ!?」
メンマは夢から醒めた。勿論、夢の中で語った夢の話ではない。
そして寝ぼけ眼で水槽の中から部屋を見てみると、可憐な少女がブレザー姿で立っていた。
しかも、何故か半眼で睨みつけている。
「あれ、そか。もう朝か。」
「朝かじゃないわよ。なんで目覚めの一言が男性器なの!?あんたやっぱり……」
——はて?彼女は何故お怒りなのか?当然夢なのでよく思い出せない。
……いや、思い出せないっていうか、あの場面は流石に覚えているけども。
『俺が生まれた時の記憶だよ。仲間にちんちんがないって言われたことがある。その時の夢でも見てたんだろ。』
「あたし、調べたんだからね。鯉ってオスメスの区別が難しいらしいじゃない。それに、おち……。コホン。先ほど貴方が口にした男性器は存在しないわ。けれどやっぱりそのお仲間に……、あ、そか。逸れちゃったんだっけ?」
やはり思春期だからか、いや思春期でなくとも気にするに決まっている。
ただ、彼女のその元気の良い煽りに応えることはできなかった。
『逸れたんじゃなくて、あいつは死んだよ。ま、他の仲間はどっかで生きてるだろうけど……』
少女は、ソレの言葉に顔を青くしてしまった。
「ご、ごめんなさい。私……、知らなくて。……えと、メンマ?その……、仲間のところに帰りたい?」
『いや、ここからどれだけ遠くにいるのかも分からないし、それに帰るわけにはいかない。……っていうか、この話は無しだ。悪いけど、例えアリアでもこれ以上の話はできない。それより今日から初登校だろ?俺のことはいいから、元気よく登校しろよ。やっぱり第一印象は大事だからな!』
アリアは一度深呼吸をして、明るい笑顔に戻った。
彼女は優しい子だ。
今の笑顔もかなり無理をしているのだろう。
こんな話をしたくはなかったが、いつかその話をする日が来るのだろう。
……でも、今じゃない。
「うん。張り切って行ってくる!私、メンマの努力を無駄にしないから!」
そして少女は元気いっぱいなジェスチャーをして、部屋から飛び出していった。
……ん、そか。今まではずっと同じ部屋にいたけど、これからは朝と夜だけしかいないってことか
少しだけ寂しい気持ちもある。
でも実はその気持ちは本当に少しだけだ。
だって少女が部屋を飛び出して、最初に発した彼の一言はこれである。
「この状況、完全にシー○ンじゃね!?」
□□□
少女は早朝から登校している。
理由は先に校長室に寄らなければならないからだ。
彼女は魔法学校の中学部の一年の部に編入することになった。
理由は単に歳が近いからである。
本来なら、アリアは小学部一年生からだ。
けれど現在、フィッシャーマン男爵程度の経済力でも、長男と次男を六歳で入学させている。
だから余程の事情がない限り、同じくらいの年齢の子供がそれぞれの学年に集まっている。
ただ、どういうわけかアリアには余程の事情が考慮されていない。
「アリア・フィッシャーマンです!」
彼女はそう言って、校長室の扉をノックをした。
……護衛の人とかいると思っていたけど
サッチマン侯爵は、この国に五人しかいない侯爵の一人である。
その彼の居城と呼ぶべき校長室に護衛が一人もいない。
「身分に関係なく平等な学問を」というゲデュー・サッチマンの考え方が伺える気がした。
無論、この地キングスフィールドでは魔法の使用が制限されている。
だからという理由もあるかもしれないが、老齢の彼を魔法以外で殺害する方法などいくらでもあるように思える。
「アリア君か、入りなさい。」
そも、彼は男爵の
今のアリアには彼が好々爺に見える。
「失礼します。」
中に入っても、護衛が見当たらない。
そして先日のように好々爺の彼がいる。
「アリア君、ワシにできることはここまでじゃ。学校生活での優遇はワシの意に反するからの。」
これもアリアにとって、何の不都合のない話だ。
むしろ入学金が無償化され、授業料もタダ、住む場所まで提供されているのだから、すでに厚遇を受けている。
これ以上は流石に何もいらない。
「存じております。如何に私が幸運であるかも理解しております。」
「では、君の担任がもうすぐやってくるから、その者に案内してもらうように。」
そのタイミングに合わせてドアがノックされた。
そして入ってきたのはデリンジャー伯爵。
どんな先生がいて、どの貴族が所属しているのかも分からないのに、よりにもよって、一番嫌いな奴がきた。
「君の担任……と言っても1学年1クラスだから、中学部一年の担任を務めているマックス・デリンジャーだ。もうすぐ授業が始まる。とっとと来い、黄土色!」
……喋り方、表情、仕草、全てムカつくが、何故黄土色?
色々思うところはあるが、担任を選べるほど、自分が偉くないことを少女は知っている。
だから、ただ従うしかない。
「よろしくお願いします。デリンジャー先生。」
そして、無言のまま廊下を歩き、一つの教室に通された。
そこで、アリアの疑問はすぐに解消された。
□□□
「なんで、あんな夢を見たんだろう。」
人面魚はポコポコと泡が出るエアレーションの上でゆらゆらとしながら、朝の出来事を振り返っていた。
「はぁ。やっぱこの学校のせいか?ゼペの奴、すぐに差別差別って言ってたしな。」
学生寮は一人一部屋割り当てられる。
貴族街に家を持たない者が利用する——というわけではない。
ここは平均以上の金持ち貴族のボンボンが別荘代わり、休憩室に利用しているのだろう。
でなければ、一人一部屋なんて選択しない。
「ここは貴族が通う学校だ。だから、あの校長の発言は最初から破綻している。差別を無くすつもりがあるなら、貴族だけの学校なんて作らないだろ。こんな立派な学生寮も全く必要ないしな。」
この部屋は、貴族の最底辺令嬢が住む家よりも壁紙にカーペットに家具と、ありとあらゆる物の質が高い。
そしてそんな部屋が埃を被っていたのだから、どれほど贅沢な学校なのかと価値観を疑うレベルだ。
「それこそ人面魚がいる部屋に似つかわしくないな。ま、一人一部屋なのは最初から読めてたから、寮を借りる提案をしたんだけど。今頃、アリアは何をどう思っていることやら……。俺にはどうしようもないけど、飼い主様には頑張って欲しいものだな。」
そして魚は溜め息を吐いて、ある実験にとりかかる。
「強力な魔法なら、おそらくは弾かれる。でも、生活で必要な魔法レベルなら、流石に許容範囲。でなければ、生活が破綻する。結局発電も魔法の力を借りているようだしな。」
【
メンマはそれなりに魔法が使える。
その理由もいずれ語ることになるだろう。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます