第7話 少女は魔法学校に行く為に交渉をする
アリアにはずっと我慢していたことがある。
春、夏、秋、冬と彼女の兄は父と母を伴って帰省する。
その時にアリアは二人の兄からあらゆる話を聞かされる。
一人は魔法学校での出来事を話し、それを聞いた長兄は魔法学校の思い出話を語る。
その時、彼女はどう思うだろうか。——私だって学校に行きたい!
当たり前のようにそう思うのだが、彼女は聡い子供だ。
この家にそんなお金が転がっているとは思えない。
でも、もしかしたらその夢が叶うかもしれない。
人面魚の口車に乗り、彼女はもう勉強した。
そして三日後、彼女は両親を自室に呼び出していた。
「ほらほら、入って入って!お母さん、どう?ずいぶん臭いがマシになったと思わない?」
その無邪気な笑顔を嬉しく思いつつ、母のイザベラは嘆息する。
底曳き網漁をやめたのだから、海の臭いはマシになっているだけ、……娘は当たり前のことを言っているだけだ。
「それは分かったから。それでお父さんに言ったこと、本当なんでしょうね?」
「うん。だからお父さんも早く中に入って来て!」
イザベラは渋々夫の腕を引っ張っるが、何やら抵抗を感じる……おい、この甲斐性無し!私にだけ臭い思いをさせるな!
という顔はお世辞にも出さず、嫌がる夫を無理やり子供部屋に連れ込む母親。
「イザベラ、分かったから。そんなに引っ張るな。それで、本当に魔法が使えるようになったのか?あの本を読んだのか?」
「うん。そ、そうすれば魔法学校に入れるかもしれないんでしょ?」
「魔法学校に入れるとは言っていない。魔法学校に例のものを持っていく時に、連れていくと約束だった筈だ。本当にあの土が金に変わるのか未だに信じられないがな。」
「でも、貴方。もしも、たった数日で魔法が使えるようになったのなら、アリアの未来が開けるかもしれないわよ。」
魚が喋ったと喚き散らかした程、彼女の娘は魔導書を狂ったように読んだのだ。
少しくらい努力は認めてやりたい。
それに、これ以上狂われても困る——あのままでは家から出すことも出来ない。
……だからストレス発散になるならと思う。
ここにいる間は娘の要求をなるべく叶えてやりたい。
「待ってくれ、アリア。魔導書を読んで魔法が使えるようになったのなら、この部屋でなくとも良いのではないか?……ほら、外の臭いも随分しなくなったし、それに——」
マーベルは部屋の三分の一を占める巨大な水槽に目をやった。
他界した父が孫娘の為に買った観賞魚。
自分と妻、そして兄二人が出ていくことが決定した頃、亡き父は孫が寂しくないようにアレを買ってきた。
「大丈夫!大した魔法はまだ使えないもん。でも、0が1に成るって凄くない!?」
それはその通りで、魔法は一番最初が肝心なのだ。
マナの使い方が分かれば、後は鍛錬と勉学に励むのみ。
勿論、その先に壁があるのかもしれないが、男爵程度ではその壁に当たるまでに生涯を終える。
ただ、魔法が使えない者は一生使えない。
だからマーベルは妻イザベラの計略を冷たい気持ちで見守っていた。
あんな本を一週間読んだところで何が起きる筈もない。
マーベスとリーベスは小さな頃から家庭教師を雇っていたではないか。
それでも、子爵様に取り入るのにあれだけ苦労している。
ただ、父親としてアリアには申し訳ないことをしたと自覚もしている。
だから例えごっこ遊びだったとしても暖かく見守ろう。
——そう思った矢先だった。
【
アリアの目の前に置いてあったブリキのおもちゃが弾け飛んだ。
勿論、稲妻も僅かだか見えた気がした。
「ほら!言った通りでしょ!」
□□□
メンマは驚愕していた。
本来ならあの魔法は人面魚・メンマが放つ筈だった。
実はアリアとメンマは策を練っていたのだ。
『魔法、魔法ねぇ。魔法を使えるってのはいいよなぁ。手に職をつけるってことだもんなぁ。人間社会だと、履歴書に何々魔法が使えますっつー感じなのか?どっちみち、空欄があるよりはいいよなぁ。』
「いい、どころじゃないの!魔法が使えるか使えないかで、仕える方も変わってくるんだから!私たち貧乏人にとって魔法を覚えることが一番の出世の道なの!……でも、魔法を教えてくれる人ってほとんどいないし、それに才能がないと全然ダメで……」
アリアはそう言って俯いた。
けれど、メンマは全く別のことを考えていた。
——フィッシャーマン家は元々、王にこの地を守れと言われていた。つまり。
『今は難しいかもしれねぇけどな。才能なんて努力してみなきゃ分からないもんだよ。自分の限界を知るには、結局努力するしかないっつーだろ?とにかく、その本を読んだっつーことにしとけばいい。俺に良い考えがあるからな。』
とはいえ、三日間。
メンマはアリアに魔法を教えていた。
あの魔導書をいくら写し取ったところでまるで意味がない。
——スマホでアプリが使えるのに、わざわざスマホの手前のプログラミングを覚えるようなもんだ。
『つーか、魔法がそれだけ大事なら、易々と魔導書を貸してくれるかっつーの』
「え?何か言った?」
『いーや。独り言。いいから、さっさと覚えろ。ちゃんと指を使え。俺に指はねぇけどな。』
そんな感じで一応教えてはいた。
でも、アリアは自分で魔法を使った。
多分、アリア自身は気付いていない。
その状況を考えると、やはり思ってしまうのだ。
——ゼペ。どうやらお前達の因縁はまだまだこっちじゃ燻っているみたいだぞ。
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