開いた鰓、濁る水槽

「ただいまー。」

誰もいない部屋に言って上着を脱ぐ。

ワキンを見ないと気がおかしくなりそうだったので

手を洗うよりも先に水槽の前に行った。

しかし、そこには想定外の景色があった。


ワキンが沈んでいる。

体を横にして水槽の底に沈んでいる。

こんなことは今までなかった。

血の気が引くのを感じた

ヒステリックに叫んで水槽を揺らす。

変化はない。

思わずしゃがみ込んでしまった。

すぐに携帯を手に取って金魚の死に関する情報を調べる。

そういえば前から鰓が開いていた。

知識など何もないので、そういうものだと思って気にしていなかった。

調べるとエラ病と言うものがあるらしい。

ワキンは病に犯されていたのだ。

しかし、俺はそんなことも知らずにただ可愛がっていた。

やはり弟といい血は争えないのだと知った。

震えを抑えつつ、水槽を覗くと、

ワキンはプカプカと水面に浮いていた。

「俺を一人にしていいと思っているのか‼︎」

叫んだ。

激しく動揺していたせいか、その瞬間のことはあまり覚えていない。

気づくと金魚を手のひらに乗せていた。


レイアウトとして置いた草や土が舞い、

濁る水槽がただそこにあった。


「あぁ…あぁ…」

呻き声に似た泣き声が出た。

自責の念に苛まれつつも同時にこんな思考が頭をよぎった。 

「せめてこの金魚を食べてやりたい。」

どうかしていると思った。

でもそう思ってしまった。

手のひらにのせると愛でる気持ちはなくなっていった。

なんで今まであんなに心の拠り所にしていたのだろうとさえ思えた。

そう思うしかなかった。

鱗の感触。

手のひらにのるワキンは案外普通の魚だった。

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