幸せと希望を食む

無造作に口に放り込んだ。

思ったより血は出ない。

味はしなかった。

感じる訳がなかった。

「ワキン…」

涙を流した。

でも不思議と既に悲しくはなかった。

これが悦びの涙なのだと初めて解った。

 

部屋にはただ濁る水槽、生命の影はない。

その場にただしゃがみ込んだ。

二十分が経ってから心がなんとか落ち着いた。

溢れた水やらなんなやらを片付けて

水槽を空にした。

そして乾かすためにベランダに置いてから、部屋の定位置に座った。

その後三日間は涙を流し続け、生活した。

次第にワキンは涙を流す俺を見たくないんじゃないかと思うようになった。 

ワキンは頑張ろうとする俺をいつも応援してくれていた。

泣くのはワキンに対して失礼だ。


いつまでも涙を流していても何変わらない。


愛してしたはずの金魚がいなくなった。

この事実は悲しいものではあったが

今までの金魚を心の拠り所にする、情け無い自分を変えるチャンスだと思った。

昔、大好きだったおばあちゃんからこんなことを教えられた。

「後悔は後悔で終わらせてはいけないよ。ピンチはチャンスだ。諦めることだけはするなよ。」

まさに今、この状況のことを言っているのだと思った。

あの時、病気に気づければあの金魚は死んでなかったかもしれない。

最後まで名前はつけてやれなかった。

自分の変な意地のせいだ。

あの時、病気を治せていたらワキンともっと長く幸せな時間を過ごせていたのかもしれない。

ワキンとの日々が走馬灯のように頭を駆け巡った。

その時、不思議と笑みが溢れた。

笑みの理由は希望と決意だった。

ワキンは、背中を押してくれたのだ。

「よし、俺は今は亡きワキンのためにも獣医師になってたくさんの動物を救うぞ。天国できっと応援してくれてるワキンのためにも、前に進もう。」

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