セルフフィッシュ

「どうかされましたか?」

今更、駅員が話しかけてくる。

「あ、大丈夫です…。あの、なんともないです。」

遅ーよ、と言う苛立ちを隠して言った。

「何かありました気軽にお声がけください。」

優しそうな人だった。


俺はいつもそうだ。

自分の失敗や恥を勝手に他人に押し付けて

人を嫌っては恨んできた。

しかし心のどこかで人の優しさを感じ、他人を嫌いになれない自分を本気で嫌ってきた。

敵を作らない生き方を選んでそうしてきたが

敵を作らない代わりに味方もできないのだということに最近気がついた。



「小林君って優しいよね。なんか不気味だけど。」

昔、女子から言われたこの言葉を頭の中で反芻していた。



今から代わりの電車に乗って大学に行くこともできたが

行けるわけがない。

今日のところは帰ることにした。


さっきと同じ風景を反対の視点から見る。

情けなさで消えたくなった。

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