第4話:鬼頭さんと朝のランニング

 今日は仕事がおやすみ。

 ボク、桃瀬ももせ丹護たんごは珍しく休日なのに朝の8時前に起きた。窓からはポカポカと暖かい日差しが差し込み、気持ちのいい天気だった。


(お腹空いた……冷蔵庫になんかあったかな)


 ヨロリと立ち上がり冷蔵庫に向かうボク。

 中には食材がほとんど入っていなかった。

 最近鬼頭さんの部屋にお邪魔するようになってからあまり買い出しに行っていないんだった。

 しょうがなくボクはコンビニに向かう為、ジャージに着替え外に出た。すると右隣の部屋から鬼頭さんが出てくる。


「桃瀬くん。おはよう」

「おはようございます鬼頭きとうさん……あれ、その服装」


 Tシャツにピンク色のナイロンパーカーを羽織り、ランニングタイツを穿いた鬼頭さん。黒のキャップも被っている。これはもしかして……。


「ああ、ちょっと朝のランニングをね」

「ランニング? いいですね!」


 なるほど。鬼頭さんのスタイルの良さは朝のランニングから来ているのか。スポーティーな女性ってカッコイイなぁ。憧れちゃうなー。


 僕がキラキラした目で見ていると。

 鬼頭さんはギロリとボクの身体を見る。

 目付きの悪さと相まってちょっと怖い……。


「桃瀬くん、ちょっとお腹出てない?」

「え、そ、そうですかね」

「うん。運動してないでしょ」

「あー……まあ、そうですね」


 まあ休日はずっと寝てるし。

 最近は鬼頭さんと一緒に夕飯を食べているから。

 その後全く運動しないで寝まくったらそりゃあ多少は太るよね。


「ね、桃瀬くん」

「ひゃ、はいっ」


 鬼頭さんの圧のある口調に。

 少し恐縮してしまうボク。

 起きてから間もないのかいつもより目付きが悪い。


「一緒に走らない?」

「え、いいんですか?」

「うん。ひとりじゃ寂しいし」


 鬼頭さんと一緒にランニング!

 絶対楽しいやつじゃん! 即快諾するボクだった。


※※※


「はぁ、はぁ……待ってくださぁい」


 ランニングを開始して5分。

 もう疲れてきた。脚とかめっちゃ痛いし。

 鬼頭さんは慣れた様子で息切れひとつしていない。


「ほら、まだ始めたばっかだよ。頑張ろうよ」

「は、はひぃ」


 走り始める前に水分補給はしたけど。

 それにしても疲れた……。

 鬼頭さんの後ろをフラフラと歩くボク。

 虚ろな景色を眺めていると。


「ほら、頑張れ頑張れ」


 ボクの横に並んでくれて。

 背中を押してくれる鬼頭さん。

 厳しくも優しい言葉にやる気が出たボクは勢いそのまま猛スピードで走り出す。普段の運動不足は気合いでカバーだ。走る走る、トニカク走る……。


「よし、いい感じだね」


 優しく微笑みボクと並走する鬼頭さん。

 そして走り始めて30分ほど……。


「はぁ、はぁ……はぁぁ……」

「はい、お疲れ様。はい、ポカリ」


 何キロくらい走ったのか。

 息が切れる。普通に立っていられないので膝に手を付く。でも物凄く達成感はある。今ならランニングに快感を覚える人の気持ちが少しは分かる。


「ごくごく……はぁ。ありがとう、ございます」

「頑張ったね。エラいエラい」

「はは……ありがとうございます……」


 本気で走ったのなんて高校のマラソン大会以来だ。いや、その時だって六割くらいの力しか使っていなかったかもしれない。ここまで頑張れたのは鬼頭さんの応援があったからだ。


「ね、桃瀬くん」

「はい……」

「もしさ、もし良かったら……君が良ければでいいんだけど……」


 少し恥ずかしそうにしながら。

 鬼頭さんはボクにこう言った。


「またランニング、付き合ってくれる?」

「……!」

「ダメ、かな」

「ダメじゃないです……いつでも、誘ってください」

「……そか。良かった」


 そう言う鬼頭さんの表情は。

 どこか幼く、少女のようだった。


 次の日。


「足痛い……かんっぜんに筋肉痛だ……」

「ごめん、私がランニングなんて誘うから……」

「いえ、鬼頭さんは悪くないです……あはは」


 出勤日なのに筋肉痛になり。

 その日はゼェゼェ言いながら仕事をするボクだった。でも鬼頭さんと走るの楽しかったし、また一緒に行きたいな。あとお腹が出てるから腹筋は毎日しよう。

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