第3話:鶴羽京、登場!(ストーカー熟女ここに見参ッッ)
「っ、はぁ。終わったー」
今日の業務が終わった。
ボク、
そう思い席を立つと。
後ろから声をかけられる。
「桃瀬君、お疲れ様。はい、缶コーヒー」
「
ボクの教育係でもあり、色々と良くしてくれる優しい先輩だ。ボクが困っていると助けてくれたり、ご飯に連れて行ってくれたりする。年齢は30代後半。頼もしい大人の女性って感じだ。
ボクは缶コーヒーを受け取ると。
素直にお礼を言う。
「ありがとうございますっ。助かりますっ」
「ふふ、いいのよ。気にしないで」
「そういえばこの前ご飯奢ってくれてありがとうございますっ。助かりますっ」
「気にしないで頂戴。本当に大したことじゃないから……」
お上品に口元を抑え。
うふふと笑う鶴羽先輩。
大人の余裕だなぁ。カッコイイ……!
瞳を輝かせ鶴羽先輩を見るボク。
すると先輩が言う。
「そうだ。今から食事でもどうかしら。近くにオシャレなレストランができたのよ……」
今からかぁ。
いつもなら了承するけど、今日は鬼頭さんと夕飯を食べるって約束しちゃったしな。
申し訳ないけど断るか。ボクは鶴羽先輩にこう返す。
「すみません、今日は用事があって」
「……そう。具体的にはどんな用事かしら」
「ええっと……」
お隣さんの女性と一緒に夕飯を作って食べるなんて言うと。付き合ってるのかと変に疑われそうだ。そうしたら鬼頭さんにも迷惑がかかる。ボクは鶴羽先輩にこう言う。
「色々大事な用事があって……すみません、失礼します」
「……そうね、大事な用事なら仕方ないわね」
「誘ってくれて嬉しかったです。またよろしくお願いしますね。では……」
ボクはその場をあとにするのだった。
それにしても鶴羽先輩ってクールで落ち着いた女性だよなぁ。やっぱり憧れちゃう。
※※※
キャピ☆ 私、鶴羽京38歳バツイチ!☆
この会社ではまあまあベテランやらせてもらってるわ。仕事ぶりも真面目でクールな頼れる""お姉さん""って感じね。オバサンって言った奴はあとで体育館裏来いや……(圧力)
そんな私には密かな趣味があって。
それは……社内の新人クンを可愛がること!
今年入社した桃瀬丹護クン。この子がまた可愛いんだぁ……! もぉなんか犬みたいで。
だからついついご飯とか
おや、早速仕事終わりの桃瀬クンを発見!
「桃瀬君、お疲れ様。はい、缶コーヒー」
努めてクールに振る舞う私。
本当は思っきり抱きしめたいけど。
抱きしめながらよしよししてエラいエラい♡ってしたいけど。そんなことをしたら彼に引かれちゃうから……乙女な
桃瀬クンは元気いっぱいの声でこう言う。
「ありがとうございますっ。助かりますっ」
「ふふ、いいのよ。気にしないで」
あー、もう。可愛すぎっ!
食べちゃいたいくらいだわ♡
でもダメダメ。まだ食べ頃じゃないわ。
もう少し熟してから……ゆっくりゆっくり食べるの。ふふ、楽しみだわぁ。
「そういえばこの前ご飯奢ってくれてありがとうございますっ。助かりますっ」
あらー♡お礼言えていい子ねぇ。
お姉さん感心しちゃうわ。
おほほとお上品に笑ってみせる私。
今すぐにでもキスしたいわ♡
そうだわ。ご飯に誘ってみましょう。
そしてそのあとたーっぷり誘惑♡して、私にメロメロになってもらうんだから♡あー、もう。私ったらイケナイ子!
──なのに桃瀬クンは。
「すみません、今日は用事があって」
なんで? どうしてなの? 桃瀬クン……。
※※※
桃瀬クンにデートを断られたあと。
私は腑に落ちなくて彼を尾行した。
勘違いしないで頂戴。これはストーカーじゃないわ。だっておかしいじゃない。いつも私の誘いに喜んで乗ってくれた桃瀬クンが突然断るんですもの。きっと何か裏があるハズだわ! 悪い人にそそのかされてるかも!
夜道を歩く桃瀬君の後ろをこっそり歩く私。何だかこういうの……ドキドキしちゃうわね! 子供の頃のだるまさんがころんだを思い出すわ。
……あら、いつの間にか桃瀬クンの家に着いたようだわ。少しボロいけどおもむきがあって素敵な家ね。もし『仮』に私が桃瀬クンと『同居』するようになったらこんな家に住みたいわね。狭い部屋の中で肩を寄せあって、自然と手と手が触れ合って、そして二人は……みたいな? なんちゃってねー!
「鬼頭さんこんにちはー!」
……ん? 桃瀬クンが誰かと話してるわ。
女の人?! 恋人?!……いや、まさかね。ウブな桃瀬クンに限って付き合ってる人なんて……あら、ちょっと失礼だったかしら。
こっそりと様子を見ていると。
──なんと桃瀬クンはその女の人の家に入っていったのだった。はあぁぁぁぁ?!?!?! 何よあのオンナーーッッッ!!! 私の桃瀬クンに何する気?!?! 許せないわっ!
勢いのまま部屋の前に立つ私。
ああもう、中に入ったほうがいいのかしら。
だって危ないわよね。優しくてちょっとナヨナヨしてる桃瀬クンのことだもの。きっと何か騙されて無理やり部屋の中に連れ込まれているのよね。きっとそうだわ! あーでも今入ったら私のクールビューティーな印象が崩れちゃうわ……一体どうすれば。
そんなことを考えていると。
突如ガチャリと部屋の扉が開く。
中からは桃瀬クンが出てきた。
「あれ、鶴羽先輩? なんでここに?」
「っ、あ……桃瀬、君」
ちょっとーーーーーッッッ!!!???
これ大ピンチじゃなーーい?!?!?!
嫌われるっ! 桃瀬クンに変態って思われて嫌われちゃう! ドン引きされちゃう! ……あ、でもドン引きされるのもいいカモ……♡ ぐへへ。
私の表情は崩れなかった。
あくまでクールな女先輩を演じつつ。
こう言った。
「ふふ、元気そうで何よりね」
「え……?」
「いえ、最近疲れ気味だったみたいだから。心配してたのよ。食事も断るものですから、具合でも悪いのかと……違ったかしら」
「そんなっ、わざわざ来て下さってありがとうございます……!」
あらー♡お礼言えていい子ねぇ。
やっぱり桃瀬クン好きだわぁ。
可愛いから好きだわぁ。
そう思ってウットリしていると。
「えっと、桃瀬くん、このかたは……?」
部屋の奥から女が出てきた。
赤茶けたセミロングの髪をかき分けデコ出しスタイルにして。スラッとした長身が特徴的な子。大人びた顔立ちだけど、実際の年齢は20代後半ってとこかしら。まだまだ若そうね。
「あ、この人はボクの会社の先輩で、
「あ、どうも……
あら、いい子ね。そこは気に入ったわ。
だけど私は認めないわ。桃瀬クンの傍にいるべき女は私なの。こういう気弱で心優しい子には大人のお姉さんが寄り添ってあげなきゃダメなの。彼女は若すぎるわ……。社会人経験は最低でも10年は無くちゃ。
私はクールなお姉さん的な振る舞いをしたまま。
鬼頭さんにこう言う。
「こちらこそ、ウチの後輩がお世話になっているようで……ふふ、いいお隣さんで良かったわぁ」
「そうだ。鶴羽先輩も一緒に一緒に夕飯食べませんか? 今から鬼頭さんと肉じゃがを作るんです!」
肉じゃが? 子供の頃はよく食べたけど。
私ちょっと苦手なのよね。子供っぽいっていうか、庶民的っていうか。
どうしようか悩んでいると。
「キラキラ……」
うぅ、そんなキラキラした目で見ないで頂戴っ。三十路後半の女にそのピュアフェイスはキツいわ。溶けちゃうっ。服がはだけてアラレもない姿になっちゃう!
アワアワしていると。
鬼頭さんがこう言う。
「よろしければご一緒にいかがですか。大したものは作れませんが、もちろん無理にとは言いませんが」
「……鬼頭さん、アナタ」
「はい」
鬼頭凛華……なんていい子なの!
こんな三十路オバサンを家に招いてくれるなんて。天使なのかしら?! いい子過ぎるわっ!
「ありがとう、鬼頭さん。それと、桃瀬君。こんなオバサンで良ければ、ご一緒させてもらってもいいかしら……」
「ぜひ! わーい、今日は人沢山だぁ」
「よし、じゃあ肉じゃが作ろっか。あ、えっと、鶴羽さん、手洗い場まで案内しますね」
「ええ、ありがとう……」
久し振りだわ。
大勢の人とワイワイするのって。
私は結婚していた頃に習得した料理術でお手伝いをする。完成した肉じゃがとワカメの味噌汁。三人で協力して作った
「どうですか? 美味しいですか、鶴羽先輩」
「ええ、とっても。二人ともありがとうね」
「いえ、私は何も……」
桃瀬クンの笑顔。眩しいわ。
そっか。私、この子の笑顔が見たくていつも構ってたんだ。大学を卒業してから一人ぼっちで、旦那とも長続きしなくて。仕事さえしてればいいって思ってた。そんな時に桃瀬クンが入社してきて。社会の怖さとか人の醜さとか知らない顔をしてきて。私が既に無くしたものを持っていたものだから。だから次第に惹かれていって。
「せんぱいっ。このニンジン、ボクが切ったんですけど、ちゃんと美味しかったですか?」
「……うん。美味しいわよ。火も通ってるし、食べやすくて。桃瀬くんはお料理上手ねぇ」
「えへへ、ありがとうございます……」
桃瀬クンが恥ずかしそうに頭を搔く。
可愛い仕草についついキュンキュンしちゃうわ。
「せんぱいっ。お酒どーぞ」
「あら、ありがとうね。助かるわ」
手料理を食べて、皆でお酒を飲んで。
……ああ、幸せねぇ。
今夜はよく眠れそうだわ。
二人とも、こんなオバサンに優しくしてくれてありがとうね。変な勘違いしちゃうわ。オバサン本気にさせたら怖いのよ。分かってるのかしら……。
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