第3話 3杯目


 あれは、2年前の暮れのこと。

 僕は焼酎の25度をソーダ割りを飲んでいたが……。

 いつの頃からか、40度のウイスキーを好むようになり、今では毎日ハイボールをガブガブ飲むようになった。

 酔い方が酷くなれば、記憶の消え方も酷くなる。


 その日はとにかく、忙しい一日だった。

 結婚記念日を家族で祝うため、夜に焼き肉屋さんへ行ったのだが。

 記録的な大雪で、年末だったこともあり、タクシーがなかなかつかまらず、とても困った。

 焼き肉屋さんへ予約していた時間より、大幅に遅刻してしまった。


 1時間遅れで入店し、父親である僕は基本、肉焼き係だ。

 飲み食い放題を奥さんが頼んでくれているが、子供たちのために、肉や野菜を焼きまくる。

 90分コースなので、子供たちと奥さんが食べるものを優先的に焼き続ける。

 注文したハイボールも一杯空けるのに、時間がかかってしまう。


 注意して頂きたいのは、ここで僕の疲れはピークに達していたことです。

 昼に夫婦でデートに博多へ向かったのですが、緊急事態宣言が終わって、初のクリスマスシーズン。

 例年以上の人だかりで、帰りの駐車場から出るのに90分以上かかってしまい、トラブル続きの一日でした。


 家族が食べ終えたころ、僕は注文ボタンを連打します。

 残り時間30分で僕はハイボールをメガジョッキで、6杯ほど注文。

 大好きなホルモンも20皿ほど頼み、元を取るため、追い込みをかける。


 食べ終えてみんなで、店の中でタクシーを待っていたのですが。

 例のウイルスで、タクシーの運転手不足らしく。

 頼んでも一時間以上、来ない。

 外は大雪ですが、お店の方が「すみません。閉店時間ですので……」と申し訳なさそうに頭を下げてきました。

 僕たちは「いえいえ」と頭を下げて店を出る。


 タクシー会社にもう一度、電話して近くのコンビニで待っていると伝えたところまでは、記憶があるのですが……。

 ここから、飛んでいます。


 ~次の日~


「あいつつ……」


 後頭部をさすりながら、寝室から出て来ると、奥さんが「おはよう」と苦笑いしていました。

 僕も「おはよう」と言うと、「昨日のこと、覚えてる?」と問われます。

 当然「いや」と答えると……。


 奥さん曰く、タクシーを待つため、コンビニまで寒いからと、娘たち3人で歩道を走ったそうです。

 そこから僕は何を思ったのか、静かな郊外で叫び声をあげたそうな。


「おってん~てん~!」

「おてんぽ~!」


 先を走っていた娘たちは、ゲラゲラ笑いながら「変態だぁ!」と悲鳴をあげたそうで。

 恥ずかしいと僕から逃げていたらしく。

 僕は追いかけるように、先ほどの発言を連呼していたそうな……。


 その後ろ姿を見た奥さんは、予約した店が郊外で良かったと思ったそうです。

 ここが人通りの多い場所だったら、僕は通報されたいかもしれないと。


 疲れていたので、許してください……。

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