第2話 2杯目
一年ぐらい前の冬場。
僕はその頃、甘いお酒が好きだったのだけど、辛口のお酒に少しずつ変わっていき。
最初は梅酒だったのに、焼酎の25度をソーダ割りにするのが大好きに。
飲み方はかなり酷くなった。
一升の焼酎を一週間もないぐらいで空けちゃう。
すると、記憶が飛ぶのも日常茶飯事。
その夜もガブガブ浴びるほど、飲んでいた。
ベロベロに酔っぱらって、裸でベッドにダイブ。
妻がいびきをかいている太っちょの僕を、一生懸命左右に転がしては、アトピーの薬を塗ってくれる。
たまに急にのっそりと起き上がり。
「うーん……」
フラフラしている僕を見て、妻が心配から声をかける。
「味噌くん、どうしたの? まだ薬終わってないよ?」
「お、おしっこ……」
そうして、寝室の壁や廊下で身体をドカドカとぶつけては、トイレまで足を運んでいるそうで。
この夜はあまりにも音が酷いので、妻は心配だったそうです。
「……」
しばらくしても、戻ってこない僕を案じて、廊下まで出てくる妻。
トイレを見に行っても僕はそこにおらず。
また廊下に戻って、必死に僕を探します。
すると、真っ暗な部屋に一人の中年が立っていました。
その部屋は僕の自室というか、書斎みたいなところで。
パソコンや本、ゲームなどがあり。
執筆にも利用している部屋です。
電気もつけず、フラフラとよろけながら、真っ裸で立っており、妻から見ると、デカケツがぶりんと目立ちます。
「味噌くん? なにやってんの?」
「あ~ 妻子ちゃん、妻子ちゃん……」
なぜか誰もいない空間に向かって、愛する妻の名を連呼している僕。
「味噌くん、私ならここにいるでしょ」
「うーん、妻子ちゃん…妻子ちゃん……ぐすりぃ~」
どうやら、立って寝ぼけているようで。
残留思念とでも表現すべきでしょうか?
きっと記憶が飛ぶ前に、薬を塗って欲しいという一心から、誰もいない真っ暗な部屋で、一人延々喋っていたらしいです。
「味噌くん! 私はこっち! こっちにいるでしょ!」
「えぇ?」
振り返って、妻の顔をじーっと見つめて黙り込む僕。
「薬ならあっちでしないと!」
「うーん……」
そして、巨体の裸おじさんを、奥さんはベッドまで連行していくそうです。
翌朝、激しい頭痛と共に、目が覚めました。
「あいたた……」
トイレを済ませて、妻に声をかけると。
「ねぇ、昨日の晩のこと、覚えてる?」
一連の行動を聞いて、僕は驚きました。
「なにそれ……こわっ! いやぁ、全然覚えてないわ」
その日以来、少しだけ酒の量を控えました。
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