第22話 少女が見据えるは
こつこつと階層間の階段を上る音が、反響しみなの緊張を助長する。
————君は大きな能力があるがゆえに、人に合わせることができない
ミアの頭には、その言葉だけが居座っていた。
連携とはダンジョン攻略をするにあたってパーティーで行動するうえで重要となるものだ。冒険者はみな自分が劣る部分、あるいは弱点となる部分を仲間と補い合うことで、パーティーとしての戦闘力を上げるのだ。
だから、連携ができないというのは冒険者として致命的なのだ。
(だけど…………)
しかし、それは連携を必要とする冒険者に限る話だ。
弱点がある冒険者だ、という前提条件が存在する。
はたして、パーティーを約束したかれに連携は必要だろうか。
いや断じて必要ない、とミアは考えていた。
彼はどこか虚空の彼方を目標とし、見据える先、彼が成りたい者はみなが考え付かないような存在のように思える。
そんな彼は連携を必要としない。
ミアとの二人パーティーでだって、個々が各々に動いたって、勝利をつかむことができるようになる、と踏んでいた。
ミアはふと、緊張を顔に張ったような彼を見る。
今はまだ、彼は弱い。
技術は拙いし、力も貧弱。加えて、自分の良さを見いだせていない。
だがしかし。
そんな思いと、そしてかつての自分を想起させ、ミアはカルナに問うた。
「カルナ、神の問いの答えは決まったかな?」
カルナは今聞くのか、と少し呆気にとられながらも考え始める。
次第に階段の横幅が広がりつつあるのは、13階層に近づいている証拠だ。
壁に掛けられた魔法石の灯も、強さを増している。
すると、カルナは長い沈黙を断ち、口を開いた。
「俺はまだあの問の答えを持ってません」
カルナは誰よりも自分の生き方にうるさい。だから、カルナはなおも考えを表す。
「だけど…………だけど俺は————」
決意を宿したまっすぐな少年の瞳を見ていたミアは、魔法石の光と少年の顔が重なり目を細める。
「ぁ——」
「————誰よりも強くなる」
————あぁ、本当にこの子は強いんだなぁ。
心は脆く、決意は腐り、体は細く、それでも掌は固かった。
しかし、それはもうかつての少年。
今は自分が行くべき道を言葉に表す準備ができている。
————だったら私は、四の五の言ってられないな。
連携を必要としない。そんなの間違っているかもしれない。
強い者同士が連携をこなしたら、もっと強くなるかもしれない。
あるいはどちらかが負傷した場合、連携が必要になるかもしれない。
「いいじゃん、カルナ。一緒に強くなろうね」
「はい、がんばります」
照れくさく笑うカルナ。
ミアも決意を胸に秘め、自分の『答え』を叶えるべく、深呼吸した。
そして、皆の足音が止まった。
「さあ、着きましたよ」
ミアはカルナの横顔を眺める。真剣な瞳の奥底には、かすかな期待の輝きが宿っている。
「みなくれぐれも気を付けましょう。それでは、行き————」
刹那、ミアは視界に突如入り込んだ光に目をつむる。
そして、開く。
「…………え?」
すると、ミアの視界から、カルナが消えていた。
剣士に不向きなエルフの剣士、今日も泥まみれ。 燈屋 @091361
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