第21話 ダンジョンの恩恵
「君の欠点はつまりは————実力です」
ミアには確実に実力がある。しかし、これには続きがある。
「君は大きな能力があるためがゆえに、人に合わせることができない」
「————」
ミアは目を見開く。ミア自身が考えていたことを指摘されたからかもしれない。
才能は大きすぎるがゆえに、時に仇となることもある。才能ある者からしたら、才能ない者の動きはとても稚拙で理解に欠けるものかもしれない。だから、合せられない。
これは至極当然のことだろう。
「君がこれからパーティーを組んで戦うというのなら、人に合わせる技も必要です」
「……お兄さんはどうやって人に合わせてるの?」
ミアの質問を受け、腕を組み少し考えてから、
「んー、私は言ってしまうと、人に合わせてもらう人なので————」
そして、はきはきと答えた。
「————合わせる必要なんてないからわかりません」
「…………」
なかなかに指導者として貫禄があったが、今の発言でその場のみなの目が冷たいものになる。
「……」
「ちょ、ちょっと待ってよ。だって僕こんな大きな剣使ってるんだよ? そりゃ、敵に突っ込んで突破口を開くのが役目じゃん? それじゃあ人に合わせるもくそもないでしょ」
いままで守っていた敬語を崩し、あれこれと言い訳を口に出す。
連携の重要性を語っていたのにもかかわらず、自身は連携していないと言った。
(この人、だめだ……)
それからもたらたらと言い訳を続けたアルミスに、チョップをくらわしたのはステラだった。
◆
「あれ? ミア、一昨日あの怪物と会ったのってここですよね?」
12階層に来てカルナの頭に真っ先に浮かんだのはあの一件だ。
一昨日、この巨大なホールにて、モンスターの変異種と遭遇したことだ。
しかし、いざその場所に来てみれば、その痕跡はきれいさっぱり消えていたのだ。
巨大なクレーターも、瓦礫の山も、そして死体も。
「なんでこんなにきれいなんですか?」
「え? そんなの当たり前じゃん」
「え? そんなの当たり前なんですか?」
「うん」
きょとんとした顔のミアをみて、自身がおかしいのだと気づかされるが、どうもカルナにはそのあたりの知識がない。
「ほ、ほら、あのクレーターはどうなったんですか?」
「そんなの消えたに決まってるよ」
「じゃ、じゃああの冒険者の死体は?」
「消えたに決まってるよ」
「かるなぁ、おめぇさっきから何言ってんだぁ?」
状況をつかめないネオが聞くが、カルナだってこの状況がつかめない。
「いや、一昨日ここでモンスターと戦って、それで結構このホールぼこぼこになってたはずなんだけど。なんかめっちゃきれいになってるし、冒険者の死体もなくなってるし」
「そんなのあったりめぇだろうがぁ」
「え、なんで?」
至極当然のようにミアとネオは頷くがカルナは理解できないでいる。
「だぁってよぉ、ここはぁダンジョンだぜぇ。壊れるたびに元通りってわけだぁ」
「いやよくわかんないんだけど」
「つまりはさ————」
ネオの説明に、後方にいたアルミスが答える。
「ここは神が張った固有結界の中だってことです。壁の向こう側はどこまでも広がり、階層に最上階があるかなんてわからない。無限の力が働いてるんです。穴が開けば修復されるし、異物があれば排除される」
つまりは、このダンジョンは壊れることはあるが、治らないことはない。死体が転がることはあるが、その場に存在し続けることはない。ということだ。
無限の力が働いているのなら、モンスターの無尽蔵な出現にも納得がいく。
「カルナ君はスケルトンを見たことがありますか?」
「はい」
「あれはダンジョンに放置された死体が、取り込まれて生まれたモンスターだって言われてる。その証拠に、スケルトンは灰にならないんです」
「へぇ……」
新たな知識が増える中、次々にカルナの常識が崩れていく。
しかし、これぞ遠征に求めた要素の一つだ。
冒険のイロハ、常識、それらが欠けているカルナにとっては遠征は絶好の学びの場なのだ。
「じゃあ、普通のモンスターから出てくるアイテムって何なんですか?」
「あれは、いわばダンジョンの恩恵だよ。ここでとれるアイテムはどれもが、地上では見れれない性質を持ってるからね」
「恩恵ですか。神様は何がしたいんですかね」
「ははッ、そんなこったぁ決まってんだろぅが」
ネオはにやりと笑い、そして言った。
「————オレたちを試してんだよぉ」
「ためす……?」
確かにこの塔の名前は『
「そうです、カルナ君。神は僕たちがダンジョンを攻略できる者かを試しているのです。だから、僕たちはみな『神の問い』に答えさせられるんですよ」
「神の問い、ですか」
「そう、皮肉なものだよね。答え次第で人生がまるっきり変わるんですから」
この場のカルナ以外がもうすでに『神の問い』を受けているのだろう。
みな何を答え、そしてどのように生きるように定めたのか。あるいは定められたのか。
カルナはこれから来るであろう『問い』に少なからず抵抗があった。
なりたいものは確かにある。
追いつきたい人がいる。
そのためならいくらでも努力する。
だが、それになれたとき、追いついたとき、自分は『自分』と言えるのだろうか。
その何かを目標にして、その何かになったとき、それは本当に自分なのだろうか。
それはただの模倣に過ぎないのではないか、と。
だから、今なおカルナは『問い』への明確な答えを持っていなかった。見つけられていなかった。
ふと、カルナは白髪の少女を見る。
(答えなんて、今はどっちでもいいか。見るべきは確かにそこにある、はずだ)
その少女が何を与えてくれるのか、カルナは分からない。
しかし、何かをくれる気がするのだ。
「では、階層を上るとしようか」
会話がひと段落着いたところで、アルミスは13階層への通路を指さす。
「13階層からはモンスターが物理攻撃以外も仕掛けてくるようになる。十分に注意をしておくように」
低い声でカルナたちに注意喚起する。
13階層。
カルナの未到達階層。
ファーストラインと呼ばれる、ダンジョンで最初に訪れる大きな変化。
ごくりと唾を飲み込み、見据えるは階層間の階段。
「では、行くぞ」
その合図とともに、カルナたちは階段に足をかけた。
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