第6話 パーティー結成
「やあ、また来たよ」
「げっ」
「げってなんだよ~。素直になったほうがいいんじゃないかな? 本当はうれしいんでしょ?」
一昨日ミアとここで会い、続いて今日もミアは現れた。ひくひくと眉を動かし俺を挑発的に上目見る。
「まったくそんなことありません」
「あはははは、本当にそんなことなさそうにしないでよー」
「ほんとにそんなことないんで」
「ほんとにそんなことないんかい」
彼女は俺の何が面白いか分からないが、コロコロ笑ってる。
一昨日、彼女が剣を振っているところを見た。
そして、今のままではダメなのだと知ることができた。
変わりたい。強くなりたい。
その思いだけが、心のどこかで燃えている。
なら、彼女を認め、そして、学ぶべきなのだ。
彼女も自分と同じくらい努力をしている。同じ努力でこの実力の差。それは、なにも才能だけではないはずだ。彼女から盗めるものは必ずある。
だから。
「剣を合せませんか?」
技を見て、触れて、盗む。そして、彼女よりも努力する。それが俺に出来ることだ。
「え? いきなりじゃん。もしかして、一昨日私にボコボコにされたのが悔しかったとか? さすがはエルフ君」
「剣を合せませんか?」
「いや聞こえてるから。ちょっとそんな目で見ないでよ怖いじゃん。まってわかったよやりますだから怒んないでよー」
そうして、彼女から技術を盗む日々が始まった。
◆
「だめだよ、その剣筋では。君の動きは型通りすぎる。もっと自由に振るんだ」
ミアとこの場所で話して以来、彼女は俺が素振りしているとここに来ることが多くなった。そして、俺はそのたびにアドバイスと称して剣を合せてもらっている。
「素振りすることは大事だよ。だけど、それで君の動きは固くなってる」
ミアは斬撃をいとも簡単によけていく。
その場でステップし、最小限の動きだけでかわしていく。
まるで、剣がミアをよけているようだ。
当たらない。まるで当たらない。
刹那、彼女の剣が一瞬にして視界を埋める。その速さは尋常じゃない。音を置き去りにして、風を切っている。
「…………っ」
勢いで目をつむる。
生まれた風で前髪が揺れる。だが、衝撃はない。
恐る恐る目を開くとそれは顔のすれすれで止まっていた。
「……負けました」
「ありがとうございましたー」
勝敗が決したと同時に俺は倒れこむ。
ふと痛みを感じ、手の平を広げる。固くなったマメがまた破れ、血が流れている。
これだけやっても、まるで敵わない。手を握り締め、唇を噛む。
どうしたって彼女に追いつける気がしない。
剣を交えるたびに感じてしまう。俺と彼女との間の決定的な差を。やはり彼女の技量は突出している。
「素振りして逆効果になるんなら俺は何をするべきなんですかね?」
彼女が先ほど言った『素振りをすることが動きを固くさせている』と言うことに引っ掛かった。
すると、ミアは手を左右に振って。
「ちがうよ。君は素振りの仕方が間違ってる。素振りってのは振りを強化するのが目的でもあるけど本質は違う。ただ闇雲に振ってたってだめ。大事なのは剣の扱いを上達させることさ。扱いがうまくなれば自然と振りも強くなる」
「なるほど」
確かに一理あるが、こんなにも説得力を感じるのはミアが言っているからだろう。
俺は傍らに置いてあった水筒をミアに渡す。ミアはありがとう、と言って腰を掛けた。
心地よい風と時間が流れる。ミアはきれいな白髪を揺らしながら、遠くを見ている。
その儚げな横顔を見ていると、口から心がすっと零れた。
「今のままじゃ強くなれない気がするんです。このまま、ずっと変われない気がする」
なぜ本音が出てしまったのか。
それは彼女の横顔が『何か』をくれる気がしたからだろう。
「剣を振るだけでは、あなたのような剣技にはきっと届かない気がするんです」
そう、彼女と俺の技術の差にはなにか高い壁があるように思える。
高くて分厚く終わりが見えないような壁。
大きく決定的な差異。
「そうかな? 私とここで会ってから数日しか経ってないけど、君の剣は変わったよ。力ともう一つの何かが、剣に込められてるようだよ。まるで、君の気持ちが別の何かに変わってるようだ」
彼女の言うことに納得がいく。
しかし、俺が求めてる答えは、もっと違う根本的な『何か』だ。
今の方法では足踏みを繰り返すだけ。
これではダメなのだ。いつまでたっても彼女の足元にも及ばない。
もっと劇的で効果的で根本的なものが欲しい。
この考えがひどく傲慢で浅ましい事なんてわかってる。
だけど、そうでもしないと。
「でも、俺はもっと……ちがう何かが……」
自分の考えを表すために言葉を探すが見つからない。
あなたに追いつくために、あなたに少しでも近づくために、そして自分を変えるために何をするべきなのか。
剣を交えるだけでは足りない。彼女との差を思い知らされるだけで、止まってしまう。
だから…………。
すると彼女はうん、と頷いて。
「わかったよ。君が言ってることはそういうことじゃないんだね」
「はい、すみません」
すると、ミアは頬に手を当て考えて、口を開く。
「じゃあダンジョンに行ったらどうだい? 君が欲してるのはやっぱり命を賭けた実戦でこそ得られるものかもしれない。ダンジョンは強くなるにはとても効果的だよ」
「ダンジョン、ですか」
命を賭けた実戦。確かに実戦経験は重要かもしれない。
元冒険者のルベーラおばさんも確かダンジョンに行け、と言っていた気がする。
知識がないためあまり奥地まではいけないのだが、これまでもたびたび潜っていた。
「うん、いっしょにダンジョンに行こうか」
なるほど彼女が一緒であれば何も不安はないな。彼女は強いしアカデミーで最低限の知識くらいは習得済みであろう。
だから心配ない…………って、え?
「え、一緒に、ですか?」
「うん、君一人じゃ心配だからね。私こう見えてアカデミーの座学、ちゃんと受けてたんだよ。知識がなさそうな君についてってあげるよ。下層までだけどね」
なんか子ども扱いされてないか。
ミアは俺の頬をぶすぶす指で刺してからかうが、今はこの人に感謝するとしよう。
その煩わしい手を払いのけて。
「じゃあ、お願いします」
ミアが差し出した手をつかみ、そして立ち上がる。
大きく息を吸い、そしてダンジョン、もとい
強くなりたい。
それが思いで終わらぬように、俺はダンジョンに行くことを決意する。
「うんっ、じゃあ明日からにでもダンジョンに行くよ! パーティーの名前どうしよっかっ?」
「そんなのつけなくていいでしょ。ギルドじゃないんですから」
「もー、エルフ君はつまらないな。じゃあ、勝手に考えるよー。そうだな、こんなのはどうだい? モノクロパーティー!」
「あなたいいセンスしてますね」
「馬鹿にしてるな」
先ほどとは打って変わって子供のようなはしゃいだ様子で、パーティー名を考えるミア。そのどれもが、決定的にセンスに欠けているが。
この人、もしかして剣術以外はからっきしなのでは。
そうして、俺たちは(仮)という形でパーティーを組んだ。
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