第7話 能力値(ステイタス)
「おはようございます……」
「おはよーエルフ君。って、お疲れ気味だけど、もしかして私との冒険に胸を躍らせて、夜も眠れなかったとか?」
ミアはグイっと上目遣いで表情をうかがってくる。
「そんなんじゃないです。ただ、あなたがだいぶ遅れてきたなと呆れていたんです。どれだけ待たせるですか」
「どれだけってあんまり遅れてないでしょ? わたし」
こっちは日が出るくらいにはここに来てたんだ。反省の色がないミアを問いただす。
「あんたはギルド省で朝一にステイタス鑑定をしてもらってから、ダンジョンに行こうと言った。ギルド省は一日中開いてるから、朝一がいまいちわかりませんでした。だから俺は夜明けにはここにいたんです」
ステイタスの鑑定は遠征の手紙に『必須事項』と記されていたからだ。理由としては、遠征の前後でステイタスの変化を見るのが大切、だとか書いてあったが今はどうでもいい。
「えっ! そんなに待ってたの!?」
目を大きく見開き、しまったと顔をしかめる。
そして、俺はわざとらしく腰に手を当てる。
「あーあ、めっちゃ寒かったな。いてててっ」
「大変申し訳ありませんでしたー。って、エルフ君もおかしい気がするけど、いいや」
彼女はペコリと頭を下げた。
「ふむ、よし、許してあげましょう。その代わりまた今度ご飯奢ってください」
「ええ!? 私こう見えて金欠なんだよぉ。あんまり高いのはなしだからねー? お願いだよ?」
「わかりました。じゃあ行きますよ」
彼女とご飯を食べる約束ができたことに、なぜか心が軽くなる。そのまま俺たちはギルド省へと向かった。
◆
「ステイタス鑑定ですね。承知しました。あちらの部屋へ待機してください」
受付の女性が指す部屋へと入ると、そこは小さめの部屋で長椅子が置いてある。
部屋の真ん中には俺と同じくらい高さの長方形の石板が鎮座している。なにやら、古代文字が刻まれていて、かすかだが魔力を纏っている。
長椅子に座り待っていると、先ほどの職員が入ってきた。
「こちらへどうぞ」
ミアはお先へどうぞと促すので、俺はその石板の前に立つ。
「書面への印刷でよろしいでしょうか?」
「あ、はい」
すると職員は一枚の真っ黒の紙を手渡してきた。そこには何も書かれていないが、魔法具の一種だろう。魔力が集まっているのがわかる。
「
促されるままモノリスと呼ばれた石板に手を着く。すると、モノリスに刻まれた古代文字が淡い光を放つ。
それらは次第に触れた手に収束する。
そして、手を伝い、腕、肩と順に光を纏った文字たちが流れていく。
それはやがて紙を握っている手へと伝い、そして紙に刷り込まれていく。紙には白い文字がつらつら並べられていく。
「終わりました。個人のステイタスは私的な情報となりますのでギルド省職員であろうと、確認することは禁止されています。ですので、その用紙が流出することはお避け下さい」
職員の説明を聞きながら、ステイタスが示された紙を見る。
そこには、俺の名前を先頭としあらゆる項目が数値化され、それらと魔法の種類とスキルを総合した戦闘値つまりはレベルが記されている。
【
身体能力——32
技術——72
魔力量——654
魔法——
スキル——
特殊——
・魔力を視覚的に捉えることが可能
戦闘値——level.3
「…………」
ステイタスを見るとやはり低い。低すぎる。
剣士としては駆け出しにしても低いくらいだろう。技術が少しだけ高いくらい。
相変わらず魔法やスキルはないままだ。
特殊の
いつかはスキルや魔法が発動してほしいと思う。
だがやはり、俺は今のままではだめだ。
何かを変えなければ上に行くことはできない。
そして、根本的な能力を上げなければならない。
するべきことは明らかだ。
あとは努力するだけ。
そうしてミアのステイタス鑑定の終了を待つのであった。
◆
「ダンジョンはその者の成長を喜ぶ」
「いきなりなんですか?」
ダンジョンに入った直後に、ミアが唐突に言った。
「アカデミーで習ったことだよ。ダンジョンに潜ることが、冒険者としてのスタートライン。ダンジョンの恩恵は、ダンジョンに潜ることで与えられる。そして、恩恵によって冒険者はどこまでも強くなる可能性を持つことになる」
「どこまでも……」
「そう、どこまでも」
確かにダンジョンに潜ることが強くなるための有効手段とルベーラおばさんが言っていた。
「だから、冒険者になった今。私たちはどこまでも強くなれるのさ。ステイタスの確認に意味があるのはこのため。駆け出しの私たちはとりわけ成長の度合いが大きいらしいからね」
彼女は冒険者の基本を語っている。アカデミーを卒業していない俺は、そこら辺の知識に疎いことを知っているからだろ。
「そして、ダンジョンに潜る者と、潜らない者とではステイタスは天と地ほどの差が出る。ダンジョンに潜る前のステイタスなんて、言ってしまえば土台に過ぎない。ステイタスはどこまでも成長していくからね」
彼女が言いたいのはたぶん、ダンジョンによる成長の凄まじさなのだろう。
だが、ダンジョンは聞けば聞くほど謎があふれる。その存在をはじめとして、構造や建築された意味など、分からないことが多い。
「だから種族なんて関係ない。弓使いのドワーフだっているし、斧使いの
どうやら伝えたかったのはこのことだったらしい。
俺がエルフ族であることを気にしていたのだろう。
しかし、俺はこの話を聞かなかったとしも何も変わらない。強くなると決めたから、そこに戸惑いなんてない。
だがやはり、彼女は優しい。
「俺の想いと努力次第ってことですか」
「そーゆ―ことだよ」
どんどん、奥へと向かう俺たち。ダンジョンの下層は石でできた通路と多くのホールで主に構成されている。まるで迷路のような構造だ。
もはや人工物であることは疑いようがない。しかし、これらは人工物ではなく、しいて言うなら神工物だ。なぜなら、この塔を建てたのは神とされているからだ。
この際だ。ミアにいろいろ聞いてみよう。
「今思ったんだけど、ダンジョンって上に行くほど広くなるんですよね? だったら、この塔は見た目的におかしくないですか?」
そうこの塔は円柱状の形をしている。
「あー、これぞダンジョンの謎ってやつだね。言ってしまえばここは一種の異世界なんだ」
「異世界?」
ミアは通路の壁に触れてこちらを見る。
「そう。じゃあ、ここで問題。このダンジョンの壁をずっと掘り進めたらどうなるでしょうか?」
この塔は一つの巨大な都市ほどの幅がある。しかし、どれだけ巨大でも終わりはあるだろう。
「普通に考えたら外に出るんじゃないですか?」
ここでミアはちっちっち、と指を横に動かす。なんか先生みたいだ。
「実は外に出ることはないんだ。そのまま永遠に続いているらしいよ。だから、一種の固有結界がこの空間を作り出しているって言われてる。それなら上に行くほど大きくなるってのも頷ける話でしょう?」
「紛らわしい事するんですね、神様って」
「ふふふっ」
しかし、彼女の話を聞いていたが今はダンジョンの中にいるんだったな。彼女がいるだけでこんなにも心強いのか。
「……」
すると、通路の向かい側から足音が聞こえてくる。数は五ってところか。
ミアの表情はいきなり真剣そのものとなった。剣を交えるときと同じだ。
魔法石の明かりが照らしその正体をあらわにする。モンスターの中で最弱と呼ばれるゴブリンだ。
目を血走らせ俺らを見るや否や咆哮と共に迫りくる。
「ガルゥアアアアアアアッッ!!」
こいつが何を考えているのかなんてわからない。生き物であるかも定かではないが、しかし、この形相は生への執念を感じる。
「行こうか」
ミアの合図とともに、俺たちはゴブリンたちへと襲い掛かった。
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ちなみに、なぜステイタスのスキルの欄に何も記入がなかったかと言うと、
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