第43話 閑話 とある配信者の萌え語り
うちで飼ってる猫の白玉が可愛すぎるのでこれを独り占めするのは申し訳ないくらいなので、可愛すぎる白玉の飼い主の義務として配信しているけど、あくまで趣味だ。仕事にする気はない。
私は外見がそこそこよくて押しに弱そうに見えるらしくて、変な人にからまれやすい。だからこそ白玉の自慢もあまりできる知り合いがいないので、こうして配信をしている。
身バレはもちろん、変な人をひっかけないよう対応には気を付けている。だからあまり見てくれてる人とも交流しないようにしてるし、コラボも基本的にはしない。
だけど今回、あまりに魅力的な配信者が現れたのでさりげなくフォローしてさりげなく親しくなってついにコラボにこぎつけてしまった。
そう、今話題のきゅーけちゅチャンネルだ。同じ白猫飼いと言うことで動画を見たけど、猫のシロちゃんがめちゃくちゃ賢くてうちの子に負けず劣らず可愛い、というのはもちろん、私の心をそれ以上につかんだのは白猫と同一人物と言う設定の吸血鬼猫娘シロさんとアカさんの二人のやりとりだ。
変な男の人に付きまとわれた経験のある私は男性に夢を見るのはとっくにやめた。私にはもう白玉がいればそれでいい。そう思って生きているけど、それはそれとして恋愛に対する興味は残り、私は日が落ちれば昇るように自然に、ごく当たり前に百合に没頭した。
私自身とは全く別物であり、かつ男性のでない恋物語である百合こそ私が唯一純粋に楽しめる恋の話なのだ。
「んふふ」
この二人、距離感がとても近くてただの友達ではない萌え対象として目をつけていたのだけど、まさか、本当にカップルだったとは。
ネタっぽく百合ですとか、冗談っぽくカップルチャンネルとか言っていたのに、本当だったなんて。営業百合と見せかけたガチ百合! そう言うの、大好き!
「と」
思わず笑いが漏れてしまった。
アカさんとシロさんとの通話を切り編集作業に移ったのだけど、二人の姿を見ているので先ほどの光景が脳裏から離れず、つい顔がにやけてしまう。
「ふ……ふふふふ」
ああっ、でもこんなの、我慢できるわけない!
恋人じゃないとフツーのノリで否定された時は、あー、やっぱそうだよね。といち黒子さんのノリで愛の巣とかちょっとキモいこと言ってしまったと反省したんだけど、その後シロさんが乱入してきて、恋人じゃないと言ったことに文句を言ってきた神展開だった。
アカさんはめんどくさい恋人じゃないって言っただけで、恋人恋人、なんて言っていたけど、どう見てもそう言う流れではなかった。
シロさんは恋人と思うくらいのことをしていたのに、アカさんにその自覚はなかったとか、なにそのすれ違い、漫画か。めちゃくちゃに萌える。
アカさんの方は気軽に距離つめてくる感じだったから、シロさんだけじゃなくて勘違いしてる子とか過去にもいたんだろうなぁ。そんなアカさんに憧れる年下のシロさんとか、そう言う年の差百合好き。
しかもあの感じ、アカさんも満更ではない、というか普通にこれをきっかけに付き合うだろう。
はー、推しのカップル成立の瞬間を目撃してしまった。尊過ぎ。投稿には載せないけど、撮影できてた動画は一生保存版だ。
んにゃー
「あ、白玉ぁ。どしたのー?」
完全に手が止まってトリップしていたけど、白玉のおかげで戻ってきた。足元にすりすりしてきてくれていた白玉を抱っこする。
あー、白玉やっぱ可愛い。シロちゃんもすっごく可愛いけど、やっぱりうちの子が一番可愛い!
ふわふわで、白玉はちょっと猫にしたらタレ目気味なのが優しくて、白玉可愛い。
にゃあ
「可愛いねぇ、どしたの? お腹すいた?」
とんとんと私の手を叩いて催促してきた。ご飯っぽいので用意する。
白玉は満足そうにうなずいてご飯を食べ始める。かわいー。頭をなでると耳をぴくぴくさせ、ちょっとめんどくさそうに私を見上げてから黙ってご飯に戻った。
ご飯食べてるとこ邪魔したのに許してくれて、やさしー。かわいー。
「白玉はかわいいねぇ」
んにゃ
お返事できてかしこい! 可愛い。はー。白玉可愛い。
にゃん
「はい、お粗末様でした」
白玉は食事を終えると私に一声鳴いてからキャットタワーにむかった。
挨拶できるの賢すぎる。白玉ってやっぱ天才だわ。
白玉の可愛さに和んでから、私は元の作業に戻る。えーっと、編集ね。
別に保存してるから、これは普通に見せられるところだけにしないと。シロさんが出てきて以降は当然カット、と。
「んふふ」
その前にもう一回見る。シロさんが飛び出てアカさんに詰め寄るところ。カメラの角度的にまるでキスをしているようにも見えてとてもいい。
それと、お尻から出ている尻尾が揺れているのも可愛い。
私は今まで普通に百合対象として萌えていたけど、猫娘と言うのも可愛いと意見が変わった。
動画は百パーセントCGだと思っていたけど、どうやらおもちゃも使っていたようで、シロさんは普通の通話なのに耳と尻尾が生えているように見えて、まるで本当の猫娘みたいだ。
以前にテレビで脳波に反応して動く猫耳と言うのも見たことがあったけど、最近のおもちゃはすごく精巧のようだ。すごい。
私がつけたら白玉はどんな反応をするのか、ちょっと試してみたい気もする。
そして編集を終えた私は、ネットの海をさまようのだった。
そんな楽しい撮影日から数日後、私とアカさんはそれぞれのアカウントで同時に動画を公開することになっている。私は普通に公開して、アカさんの方は生放送中に流してコメントをいれていくスタイルなので、私も見させてもらうことにした。
可愛いシロちゃんとうちの白玉のコラボ。これについては全く問題なく大成功と言っていいだろう。
シロちゃんのファンの人にも受け入れてもらえてほっとする。白玉はもちろん世界一可愛いけど、私の見せ方のせいでそう見えないこともあるだろうから、今回もうまく撮影できてよかった。
それにしても、実際に生放送として映っているこの二人、明らかに距離が近い。私の読みでは、机の下で手を繋いでいる。
私のやらかしのおかげで二人が正式にカップルになっていると思うと、出しゃばってしまって申し訳ないけどとても嬉しい。推しカプ成立に貢献できるなんて、私ってば徳高すぎ? 白玉を幸せにしてるご利益かな?
まだ内容の詳細は決まっていないけど、オフコラボは決定のようでそれについても触れている。シロちゃんももちろん楽しみだけど、この二人に直接会えるのも楽しみすぎる。
二人とも顔がいいから、それだけでも目の保養になるのに、正真正銘百合カップルの推しなんて。長い人生、頑張っていればいいことってあるものね。
『にしても白玉ちゃんも白玉ママさんも美人だったし、今度のオフコラボが楽しみだよね』
『……汝、わらわを前にまた堂々とよくそのようなことが言えたの?』
『え? いや、普通に事実として褒めただけなのに……え? 嫉妬?』
『ふんっ』
「!?」
不機嫌になったシロさんと、にやにやしだしたアカさんのやり取り尊すぎない? とにやにやしていると、次の瞬間シロさんは不満そうに鼻を鳴らしたかと思うとお尻をあげてアカさんの肩を掴んで下から突き上げるようにキスをした。
カメラの角度的に肝心なところは見えなかったけど、間違いなくキスをしている! 私の心のカメラには映っていた!
『ふん。これで、もう寝ぼけたことは言えんじゃろ。アカはわらわのものじゃから、見ている者も弁える様にの』
「っ、はー!」
思わず息がとまっていたので、慌てて呼吸するけど、いや、尊過ぎて本当に死ぬかと思ったし、シロさんのどや顔宣言が可愛すぎるし最高すぎる。
ていうか、私に嫉妬してない? 百合に挟まれる役なんてそんな、私、もしかして前世でめちゃくちゃ高僧だったりするのかな?
あんまりついてないし、今世では白玉と出会えた幸運だけに感謝して徳をつんで来世に期待しようと思っていたけど、逆にこの二人の噛ませ犬になるために前世と今世の徳を使い切ってしまっている気がしてきた。
にゃー
「ああ! 白玉ー!」
突然呼吸困難になった私を心配してくれたのか、白玉が机にのってきたので抱きしめる。
推しに囲まれて、幸せすぎる! 私は白玉を抱きしめて幸せに酔いながら、そっと白玉ママとは別のアカウントから二人の放送にスパチを送るのだった。
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