第42話 恋人になった
シロからどこの世界に大人だからと恋人でもないのに関係をもつのか、と怒られた。と言うか関係をもったらすなわち恋仲だろう。とか言われた。
そう言われたらそうなのだけど、いやでもね、私にも言い分と言うものがありまして。
「あの、そもそもシロ的にはいつから付き合っていた想定なの?」
「……言いたくない」
「え?」
答えによって、いやその時はそのつもりじゃなかった。こういう意味だったよ、と説明して、ちゃんと時系列で話し合えば誤解は解けるはず。と思ったのだけどそっぽを向いて拒否された。
そっぽ向いて尻尾たんたんしてるシロ可愛いけども!
「わらわだけ舞い上がっていた、などと馬鹿にするんじゃろ。ふん」
「えー、しないよー。しないけど……私が勘違いさせたなら、ごめんね。でも本当にシロのことは好きだし、多分その気持ちがですぎて、告白のつもりじゃなくてもそうしてたのかも。ごめんね」
そう言われちゃったら仕方ない。シロからしたら、私が告白のつもりじゃないセリフをそうだと思って、恋人のつもりでいてくれたんだもんね。
私はシロが恋人のつもりでいてくれて、私を思っててくれたなんてすっごく嬉しいけど、シロからしたらそりゃあ恥ずかしいだろうし、ここは素直に謝っておこう。
だってよく考えたら、そりゃあ一晩すごして回数も重ねて恋人じゃないって思う私の方が、ちょっと被害妄想だよね。バレンタインの時とか軽い感じだからって決めつけたけど、少なくとも言葉上では受け入れてくれてたのに、勝手に穿った見方をしたんだ。私が悪い。素直に受け取るべきだった。反省。
「……まあ、今更とやかく言っても仕方ない。わらわもちと、言葉足らずで誤解を招くところもあったかもしれん」
「シロ……」
そうだよね。お互い、悪いところあったよね。でもそんなの全部過去だからね! そう! これから私たちは晴れて間違いなく恋人として生きていくんだからね!
「シロ愛してる! とにかくこれからは恋人としてよろしくね!」
「にゃっ……まあ、うむ。よかろう」
慌てたし困惑してぐだぐだになってしまったけど、でも、これで私たちが恋人なのは間違いないのだ! シロも私のこと好きなんだ! うっれしい! めっちゃくちゃ嬉しい!
両思いじゃないかなって期待してたの間違いじゃなかったんだ! 自意識過剰じゃなかった!
シロを抱きしめてぎゅっとする。シロの体は小さくてあったかくて、シロの尻尾が私の腕に絡まるようにまとわりついてくる。それがどこか、シロの気持ちに思えて、何だかドキドキしてくる。
「……ねえ、シロ、キスしていい?」
「よいけど、ちゅーではないんじゃな?」
顔を見合わせてお願いすると、シロは悪戯っぽく笑ってくる。うう。恥ずかしい。
「う……ただの猫のシロには軽くちゅーできるけど、恋人のシロとは、その、キスって、感じ、しない?」
「……ふん」
「あ、ごめん、もしかして……猫のシロのこと恋人としてみるのって、その、きもいかな」
猫が好きなのは、本当に純粋にどんな猫もただ可愛くてただ好きって言う意味で、ちゅーしたって下心とか全然ないものだった。私だって例えば白玉ママさんが白玉ちゃんにそう言う気持ちでキスしてるって言われたら引く。
でももう、シロは私にとって特別だ。白玉ちゃんはただ猫として可愛いだけだけど、シロは猫としてだけじゃなくて、人としてだけでもなく、シロとして可愛くて、あー、うまく言語化できない。
「でも……好きになっちゃったら、どんなシロでも、意識しちゃうよ。だってただの猫じゃなくて、シロだから。ごめんね」
「……何を謝っておる。わらわは……茜のそう言うところが、好きなんじゃ」
「シロ……」
シロのストレートな言葉が私の胸に響いた。シロが私を、好き。どういうところかよくわからないけど、私の気持ちをそのまま受け入れてくれてるんだ。
嬉しくって、ちょっと涙がでてきた。そんな私にシロは笑って、身を乗り出してぺろりと私の頬の涙をぬぐってくれた。
ざらざらしたシロの舌はちょっと痛くて、私にこれが現実だよって教えてくれた。
「……」
シロは私の涙をとめてから顔を離し、ニコッと笑ってから目をとじた。ちょっと眉をよせて顎をあげた見慣れたその表情に、私はそっとシロにキスをした。
こうして、私とシロは正真正銘の恋人になった。
○
「茜、何をこそこそしておるんじゃ」
「こ、こそこそなんてしてないよ」
今日は普通にお風呂を別にはいった。シロとのお風呂は交代制で、後に入った方がお風呂を洗うことになっている。今日は私が後だったので、先にあがったシロはベッドにいた。
珍しいことではないのに、恋人のシロがお風呂上りにベッドで待ってるんだと思うと今まで以上にドキドキしてしまって挙動不審になってしまった。
そーっとシロの横をすり抜けてベッドにはいる。シロはベッドに腰かけているし、いつもならお喋りとかしたりしてから寝るけど、今日はちょっと平静でいられないので。
「なんじゃ? 具合でも悪いのか?」
「そうじゃないけど、まあ、なんていうか」
恋人と同じベッドにいる、というだけですごい緊張してきた。今日寝れるかな。何回もしてるのに、今更こんな、って、あー、駄目だ! 思い出してしまった。
「ふーん? ……せんのか?」
「ぶっ……そ、そんなこと今まで絶対言わなかったじゃん」
シロに背中を向けて落ち着こうとする私に、とんでもない言葉がかかって思わず飛び起きてしまう。シロは隣にうつぶせで肘をついて寝転がっていた。
戸惑う私に、シロはちょっと頬を赤くしつつもにやっと悪戯っぽく笑っている。
「今までの接し方では茜に通じんとわかったからの」
「そ、そうかもだけど。……シロと、恋人にさ、なったじゃない?」
「そうじゃな」
私の言葉にシロはニコニコしながら優しい声音で相槌をうってくれる。それだけで、当たり前みたいに肯定されたって事実が胸をきゅんとさせて、余計にときめいてしまう。
「ずっと、なりたかったし……恋人になれたのが、すごく嬉しくて。その、だから、心臓がばくばくして死んじゃいそうなの」
「じゃからそんな警戒したように距離をとって一人で寝ようとしておるのか?」
「警戒はしてないけど、気持ち落ち着けたくて」
「くくっ。あんなに積極的にがっついておったくせに、恋人になったと自覚したら引くとか、くははははっ。あ、茜はほんに、可愛いのぉ」
遠慮なく笑い出すシロに、ドキドキとは別の羞恥で体温がカッとあがりだす。ひ、ひどい! そんな風に思ってたの!?
そ、そりゃあまあ、自分でもちょっと思ってたけど、でも、仕方ないじゃん! シロの事好きだし、最中は夢中になって求めちゃうじゃん! 私まだ若いし!
「が、がっついてたとか言わないで。ガツガツしてもいいって言ったくせに」
「悪いとは言っておらんじゃろ。いつも、わらわに夢中な茜も可愛いし、好きじゃと思っておったよ」
「ううぅ」
そう言う、そう言うことを今まで絶対に言わなかったじゃん。だから勘違いしてたのに、誤解がとけた途端に積極的になりすぎだよ。私からしたら恋人になったばっかりなのに、そんな風に言われたら、うぅ、ますます好きになってしまう。
今までの言葉少なめのちょっとミステリアス意味ありげなシロにもときめいていたけど、今のストレートに好意をだすシロも好きすぎる。
ていうか、シロの時点で好きすぎてどんなシロも好き。あああ、あー、めっちゃ好き!!!
キスもしたいし、エッチなことだってしたいよ! したいけど、両思いの恋人なんだって思うと今まで以上に興奮して頭がおかしくなりそうだから自重してるんだって! もう!
「し、シロ、ほんとにときめきで死んじゃうから、今日はもう、寝させて」
「安心せい、茜」
「し、シロ?」
お願いするとシロは優しい表情になって起き上がり、そっと私の頬を撫でてくれた。そしてゆっくり私の肩を押して、ベッドに寝かせてくれた。
あ、これは寝かしつけてくれる形なのかな? 正直に言うと今はお腹ぽんぽんして添い寝とかでも興奮すると思うから、できればとにかく距離をとってほしいんだけど。
「ん」
「!? し、シロ!? 話が違うんだけど!?」
どう断ろうか、と思っているとシロは寝転がった私の肩から手を離さず、そのまま顔を寄せてキスをしてきた。思わずシロの肩を押してから苦情を言いつつ、シロの肩ほそっ! 寝間着ごしのちょっと熱めの肌エロい! と意識してしまう。やばいやばい。もうそう言うことしか考えられない。
そんな私の気持ちを知ってか知らずか、シロはにやりと笑って自分の唇をペロリと舐める。え、えっちだ。
「わらわは安心せい、としか言うておらん。大丈夫じゃ、茜」
「なにが!?」
「吸血鬼は心臓がドキドキしたくらいでは死なん。もし茜がドキドキしすぎて心臓が破裂したなら、わらわがまた助けてやろう。安心して、わらわに身を任せるがよい」
「ぜ、全然安心できない」
らんらんと目を光らせるシロの、今までにない積極的な態度に、私の心臓は本当に破裂しちゃいそうなくらいうるさくなっていく。
でも薄々わかっていた。私にシロを拒めるような理性なんて最初からないし、頭がおかしいくらいシロのことが大好きなのも、最初からだって。
覆いかぶさってくるシロに私は観念して目を閉じた。そして私はシロと今まで以上に長い夜を過ごした。
これからも、ずっと。長い夜を共に生きていくんだ。吸血鬼としての私のハッピーライフは、まだまだ始まったばかりだ。
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