第41話 コラボしたら

 コラボだ。と言っても録画して編集してなので、そこまで緊張しなくてもいいはずだ。約束は午後からなので、お昼もすませて準備を全て済ませる。


『こんにちは、アカさん。先日は急に切ってしまってごめんなさいね』

「こんにちは。全然気にしないでください。私も話しすぎちゃってたので。白玉ちゃん可愛いですね」


 挨拶をして顔をあわせ、改めて段取りを確認してから早速撮影に入る。


「はい、どうも。今日はなんと、スペシャルゲストをお呼びしています」

『にゃあ』

「白玉ちゃん! 可愛い! はい、と言う訳で、白玉ちゃんと、そのママです」


 黒子さんにもわかりやすいようにしっかり挨拶をして、白玉ちゃんの機嫌のいいうちに撮影をこなす。うちのシロちゃんはプロなのでいつでもいいけど、本物の白玉ちゃんは気がのらないと無理だしね。仕方ない。

 ちょっと白玉ちゃんの気を引く時間があったものの、基本的に予定通りの撮影をすることができた。あとはかるーく猫について雑談して尺を稼いだらOKだ。


「いやー、にしても本当に白玉ちゃんも可愛いですよね。うちのシロとシルエットも似てるし、実際に二人並べたところも見たくないですか?」

『! オフコラボってことですか! お二人ってコラボとかされてないみたいですし、今回のオフコラボもお邪魔かなーと思ったんですが、オフもいいんですか?』

「もちろんですよ。というか、白玉ママさんみたいな優しい人に声かけてもらえて嬉しかったです。コラボする勇気が湧いてきましたもん」


 ちょっとびびってたけど、白玉ママさんの動画も優しい雰囲気だったし勇気だして受けてよかった。ネット上でだけでやり取りするならともかく、顔出して個人としてやり取りするのはちょっとビビってた。

 ネットで出会って会うって現代では珍しくないみたいに言われてるけど、私はいつだって現実の猫ちゃんに夢中でそう言うのやったことなかったし、実際コメントでも変な人多かったし。

 でも白玉ママさんは動画との印象もほぼ一緒でいい人だし、これなら他の人ともガンガンコラボしていってもいいかも、なんて気になった。まあ、どんな動画にするか難しいところはあるけどね。


『本当ですか! 嬉しいです。うふふ。そう言えば……シロさんのお姿は見かけませんけど、ご一緒に住まれているわけではないんですね?』

「え、あー、住んでますけど、カメラに映らないようにしてます」

『そうなんですね、動画にはいれないにしても、ご挨拶くらいできなたらなーと思うのですが』


 膝に大人しくのったまままどろんでいたシロを持ち上げ、顔を見る。


「挨拶する?」

「にゃん」


 シロはめんどくさそうに顔を振って尻尾で膝を叩いてきた。おろして背中を撫でる。


「すみません。今はいいそうです」

『ふふ、設定守られてるんですね。シロちゃんがそう言うなら仕方ないですね』

「今度のコラボ時とかは挨拶くらいできる様にしておきますね」


 今日はそのつもりで気持ちの準備してなかったし、普通にシロも普段着のままだったしね。シロの気持ちがのらないなら仕方ないだろう。白玉ママさんもわかってくれてよかった。


『コラボ、本当に期待していいんですね。じゃあお願いします。でもオフコラボになると、場所に悩みますよね。ワンちゃんだとドックランとかでしやすいんですけど、ペットカフェとか、うーん、でも遊べるスペースとかあったほうがいいですし、配信許可もとらないとですし。すみません。実は私もオフコラボはしたことなくて』

「そうなんですねぇ」


 なるほどドッグランか。ああいうのって公園っぽい感じだし、猫を連れていっては駄目ってルールではないかもだけど、犬がいっぱいのところに猫を連れていくのは憚られるよね。喧嘩しても恐いし。

 ペット可能のカフェも、私はシロと普通のカフェに行くから行ったことないし、どんな感じか分からないからなぁ。


「あ、よかったらうちはどうですか? うち結構駅近ですし、ちゃんとキャットタワーもありますし、配信環境も大丈夫ですから」

『えっ!? そんなそんな、嬉しいですけど、そんなお二人の愛の巣に私なんかがお邪魔するなんて』

「ふふっ、なんですか、愛の巣って。私たち、そう言うめんどくさい感じの、恋人じゃないですから」


 初めて見た白玉ママさんの慌てようと、愛の巣って言う言い方が面白くて笑っちゃって、さらっと自分で否定したけど、恋人じゃないって自分で言ってからちょっとダメージ負ってしまった。


「にゃっ!? フカー!」

「え? いて! え?」


 シロの顔を見ないままこのショックをやり過ごそうとしたのだけど、急に鳴かれて手に爪を立てられてしまった。思わず両手とも振り上げると、カメラの死角になった私の右手の手の甲がちょっと血がでてたのがふさがっていくのが見えた。

 舌でなめる私に、シロは膝から飛び降りてカメラから消えたのも一瞬で、すぐに人になって私にのしかかるようにソファに飛び乗って、ぐっと肩を掴んできた。


「どういうつもりじゃ!」

「ふぁ!? な、なに? なにが?」


 今私なんかシロ怒らせること言った!? え? 混乱して何にも分からない。

 シロはめっちゃ眉を吊り上げたみたことない激怒した顔をしていて、恐いくらいだ。むき出した歯から、犬歯の長さまで見えて、吸血鬼らしくてちょっとびびる。


「何がも何も! あれだけのことをわらわにしておいて、恋人ではないなどと! わらわを前にしてよく言えたの!?」

「えっ!?」


 こ、恋人ではないって言ってことに怒ってる!? え? ちょっと待って、つまり、私のこと、恋人って思ってたってこと!?

 ちょ、あ、ま、待って、今、白玉ママさんと繋がってるから! まず誤魔化さないと!


「ち、違うって! 私が言ったのはめんどくさい感じの恋人じゃないって言ったの! 私たちはそう、めんどくさくない恋人だから!」

「……そう言うことならよいが」

「そう、だからこの話はまた後でね! すみません白玉ママさん、ちょっと変な感じになっちゃって」


 しかめっ面のままだけど怒気をおさめてくれたシロを撫でながら横に座らせてなだめ、なんとか白玉ママさんに謝罪する。


『い、いえいえ! 私のことはお気になさらず、どうぞ続きを』

「え?」

『あ、いえいえいえ! ご、ご馳走様です! とにかくお気遣いなく! 全然気にしてませんから』


 白玉ママさんは突然の痴話げんかみたいな状況に困っただろうに、慌てながらもフォローしてくれた。よ、よかった。ていうか、気まずい。何の話してたっけ。あ、そう、オフコラボ。


「あ、あと、えっとー、なんか変になっちゃってすみません。オフコラボの件、また連絡しますね」

『はい。尺も十分とれましたし、それではまた』


 とりあえず連絡は切る。こ、これでなんとか。ふー。落ち着け、私。


「えっと、シロ」

「なんじゃ」

「えー、紛らわしいこと言ってごめん、というか、えー」


 落ち着こう。シロは私と恋人のつもりだったんだ。まじか。つまりなに? あの告白に対してスルー、というか私もーみたいな軽いノリだったのは、とっくに付き合ってると思ってたからってことか。はー、ちょっと分からないです。

 どのタイミングから? だって、シロから私に好きって言ってくれたことあったっけ? 雰囲気そんな感じだったけど。言葉にはしてないし。あ、言っても関係持ってるし、それってそう言うことってこと? 事実婚的な?

 このまま、恋人だったよね、知ってる、という話でいくのは簡単だ。でも……でもそれはフェアじゃないって言うか、ちゃんと素直な気持ちを伝えるべきって言うか、シロがいつから私のこと好きなのか知りたい。ここは怒られてでもちゃんと薄情しよう。


 私はシロを撫でてる手を離して、シロとちょっと距離をとってソファの上で正座して頭をさげた。


「ごめんなさい、恋人と言う自覚がありませんでした」

「……あ」

「でも! シロのこと好きなのは本当だから! めちゃくちゃ好き! 愛してる! 一生一緒にいたい! 恋人になって!」


 一瞬の沈黙の後、シロが何かを言おうとしたけど、それが恐くなっちゃって私は思わず顔をあげて勢いでシロに抱き着いて告白した。

 そうしてからシロを腕の中に確保したまま、そっと至近距離で表情を伺う。シロは真っ赤な顔をしているけど、怒りだけではなくて、照れてるような嬉しいような雰囲気で歯噛みしている。


「……んぐぐ。こ、恋人になる、という意見には、わらわも、相違ない。よかろう。じゃが」

「ありがとう、シロ! 好き!」

「ええい! 今は抱きつくではない! 大事な話じゃぞ、誤魔化そうとしておらんか!?」


 思わずさらにぎゅっと抱きしめながら頬にキスしたら怒られた。ぐいっと肩を押されたので、素直に抱き着くのをやめて手を離した。


「ごめん。だって、付き合えるの嬉しいんだもん。シロのこと、本当に好きだから」

「むぅ……まあ、わらわのことが好きな気持ちはわかった。じゃが、どうして付き合っておらんと思っておったんじゃ?」


 照れた顔をしながらも、まだちょっと不満そうにシロは唇をとがらせながらそう私を問い詰めた。どうしてもなにも、付き合おうとか言う会話を一切してないからだけど。


「それは、ていうかそもそも、シロから好きって言ってくれてなくない?」

「んん? ……いや、まあ、確かにあまり直接言葉にするものでもないが、一回も言っておらんか? 一回くらい言っておるじゃろ?」


 逆にシロに問いかけるとシロは視線を泳がせてぽんと猫になると口元をもにょもにょさせながら適当なことを言った。


「えぇ……そう言われたら自信ないけど」


 一回くらい、とか言われたら私も普段から好き好きノリでいってるからわかんないけど、でも真剣に言われたことは一回もないじゃん。しかもこの状態で猫になって表情わかりにくくするのずるいなぁ! 可愛いけど!


「いや、でもこないだバレンタインの時、私告白した時もめっちゃスルーしてたじゃん」

「スルーとはなんじゃ。わらわも本命じゃって、ちゃんと応えたじゃろ」

「んん……軽いし、普通にスルーと思うじゃん。私めっちゃ勇気だした告白だったのに」

「何っ!? ……そ、それは悪かった。じゃが、わらわとしてはとっくに恋仲のつもりじゃったし、というか、それを言ったら、その前からその、褥を共にしておったじゃろ。あれ、どう思っておったんじゃ?」


 シロは私の訴えに一瞬だけぎくっとした顔をしたけど、すぐにジト目をむけてきた。

 しとねをともに? 全然意味わからないけど、多分文脈からえっちなことしてたじゃんってことだよね?


「旅行先で初めてした時、シロ子供じゃないからこういうのもあるとか、そういう、大人の付き合いだしありでしょ、みたいなこと言ったじゃん。つまり私のこと別にそう言う対象と見てはいないってことでしょ」

「そのようなわけがあるか。大人なんじゃから、恋仲ならそう言うこともあるじゃろ、という意味に決まっておろう」


 ぐお。そう言われたら、そう言う意味にも受け取れるかも? えー、なんか、めっちゃ無駄にすれ違ってたってこと? ていうか、本当にいつからシロは付き合ってると思ってたの?

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