おまけ 吸血鬼パワー編
第44話 えっちでは?
そんなこんなでシロと私は恋人になった。まあ、幸せだけど、ちょっとシロに振り回されている感は否めない。むむむ。
別にどっちが主導権とか、そう言うのにこだわる気はないけど、正式に恋人になってからシロ、押しが強くなりすぎな気がする。そんなぐいぐい来る人じゃなかったよね?
例えば昨夜の事。
「何をしておるんじゃ?」
「いや、何をってわけじゃないけど。あの、距離、近」
「……」
シロがお風呂掃除の日だったので、先にお風呂をいただいた私がベッドに寝転んでスマホをいじっていたら、やってきたシロはすっと滑り込むように私の隣にはいってきて頭をこつんとぶつけながら尋ねてきたのだ。
体も擦りつけてきてるし、いくらなんでも近すぎる。そう当たり前の指摘をしただけなのに、シロはにんまり笑ってぐっと私を抱きしめた。シロの胸に私の顔が埋まっている。いやまあ、埋まるってほどではないけど。盛り付けられてる? それはともかく。
「あの、シロさん……」
「なんじゃ?」
「なんじゃって。急に距離近くないですか?」
「言ったじゃろ。汝に遠回しなことをしても通じんとわかった、と」
いや、その言い方も結構遠回しだと思うんだけど。要は今まではシロらしい奥ゆかしい遠回しで遠慮がちな恋人ムーブだったから私に伝わらなくてすれ違ってたから、これからはわかりやすく明確にぐいぐい来るってことだよね、わかる。
いやでも、私の心の準備がですね、急に恋人になって、急に今日からぐいぐい行きますって、恋人になっただけで舞い上がってるのに。シロがぐいぐいくるから心臓が忙しすぎて落ち着く隙が無い。
「し、シロさぁ。その、いや、嬉しいよ? 恋人になれて嬉しいし、シロが積極的に好意を伝えてくれるのも嬉しい。でもね、こう、心の準備がですね? 心臓を休ませてあげたいんですが」
「まだそんなことを言っておるのか?」
「まだって、あの。まだ恋人になって三日目だし、むしろときめき最高潮なのですが」
「そうか、可愛いの」
あわわわ。言葉通じてなくないですか? と慌てる私を無視して、シロは楽しそうに私を愛でた。
それが12時間前のことだ。
いや、思い出しても顔が熱くなる。積極的なシロも可愛いし、めっちゃ綺麗だった。でもそのせいで、四日目なのに全然冷静になれない。寝ても覚めても、シロの事しか考えれらない!
それ自体が悪いわけじゃないかも知れない。ぐいぐい来るシロも魅力的だし、恋人になったばかりだから浮かれるのは仕方ないと思う。
慌てる可愛いシロも見たい欲求はあるし、一方的に攻められてるのはちょっと複雑だけど、まあこの感情は惚気みたいなものだ。
だけど、問題はあるのだ。シロのことを恋人にしたことで、明確にお仕事に支障がでている。
人間の方はいいんだ。カップルチャンネルってうたってたわけだし。でも、猫の方、撮影していた動画を編集して投稿しようとして気づいてしまった。
いや、猫の姿だと思って、めっちゃえっちな動画撮ってしまってるじゃん! って。いや、私の頭がおかしいのわかってるよ? でも過去の動画見返しても、下からシロのお尻を見上げるのとか、めっちゃエッチ! セクシーすぎる! なんでこんな動画がBANされないのか!
「茜? 手がとまっておるようじゃが、何か悩んでおるのか?」
「あ、うん。あのさ、この動画だけど、えっちすぎるよね?」
「は? そんな動画あったか? 冬じゃしちゃんと長袖長ズボンで撮影したじゃろ?」
「そうじゃなくてこれ! 見てよ!」
この動画を編集して投稿するべきか、取り直すべきか、と悩んでいると膝の上のシロが不思議そうに顔をあげた。不思議そうなシロの脇を両手で掴んで抱き上げて画面を見せる。
「猫の方ではないか。汝は何を言っておるんじゃ?」
「だってこのシロ、言ってみれば全裸だよ?」
「……いや、じゃから、汝は何を言っておるんじゃ? それを言ったらわらわ、今も全裸になってしまうんじゃが?」
この下から見上げるお尻から腰へのラインとか、めちゃくちゃ性的だと思ったのだけど、それを言ってしまうのはちょっと直接的すぎるので言葉を選んでこの姿の危険性を伝えると、めちゃくちゃ呆れた顔で振り向かれてしまった。
ふり向いたシロの可愛さの前に、その言葉にハッとする。言われてみればその通りだ。
「そうだね!? えっ、めっちゃえっちじゃん! 服着てよ!」
「なんでじゃ。冗談もほどほどにせよ」
脇からつかんでいるけど、シロの体が小さいので思いっきり胸どころかお腹まで触ってるじゃん! と慌てて手を離した私に、シロは二本足で立ったまま体ごと振り向いて腰に手をあてた。
ああ、そんな、見せつけるみたいな姿勢、エッチすぎる。私は冷静になろうと両手で自分の顔をおおってシロの姿を消す。
「……いや、わかってるんだよ? 私が変なこと言ってるの。普通の人は猫のシロがどんな格好でも興奮しないって。でも、恋人になったってことは、猫の姿のシロも恋人に間違いないわけで、そりゃ、そう言う目で見ちゃうじゃん」
冷静になったのでそう言い訳をする。私の頭がおかしいからそう思うのだとわかってたのに、シロのあまりに赤裸々な姿にボルテージあがって感情のままに主張してしまった。
「えぇ……いや、そうはならんじゃろ。猫のわらわに興奮するのはちょっと、引くんじゃが」
「ひどい! 猫のシロも恋人として思うって言った時は、そう言うところが好きって言ったくせに!」
「いや、それはそうじゃろ。姿形関係なく、わらわと言う存在そのものを見て思ってくれていると言うことなんじゃから。じゃが、恋人として意識することと、性的な目で見るのは全く別の話じゃ。軽く恋人らしいじゃれあいをするくらいならともかく、本当にそういうとこをしたくなるのは完全におかしいじゃろ」
シロはしらーっとした目を私に向けているけど、えー? そう? 恋人として意識するってことは、そう言うことじゃん? 言ったらシロの心が好きで心に対して性的な目を向けているわけで、シロのガワが変わっても関係なくない?
例えば整形やケガとかで見た目が変わっても気持ちは変わらないでしょ! って言い訳を思いついたけど、これだいぶ話違うなぁ。
「わらわも猫として長く過ごしておるし、猫を同胞のようにすら思っておるが、そのような目で見たことは一度もないぞ」
言い訳が出てこない私に、シロは呆れたままそう続けた。いや、それもまた極端な話の気がするんだけど。
「それにどちらにせよ、猫のわらわの動画を投稿しない、というのは選択肢にないことじゃろ。猫用の服もあるが、さすがに全ての動画で着るのは不自然と言うか、わらわも窮屈じゃ。それに、投稿したところでそのような不埒な目で見るのは茜だけじゃ。じゃから今まで通り投稿せよ」
「んぐぐ」
プレゼントしてもらったので日替わりで着れるくらいは猫用のお洋服はあるけど、日常の時もちょこちょこ撮影しているし、ずっと着るのはシロの体的にも不自然だし無理があるのはわかっている。
シロの言い分はまるっと全部、頭ではわかっているのだ。だけど、わかっているけどえっちな目でみちゃうし、これを他の人に見せるのめっちゃ抵抗ある。
だけどお仕事だから、仕方ない。するしかない。人の方で稼げているとは言っても、元々猫動画で見てもらえてたんだ。急にやめたらどう思われるか。
でもだからこそ、シロにこの苦悩を理解して慰めてほしいくらいなのに、めっちゃ馬鹿にした目を向けられている。それ本当に恋人に向ける目なの? 私は、悔しい!
「……シロ、吸血鬼の力の使い方、教えてください」
「ん? 急にどうした? 汝がやる気があるというなら、わらわにわかることなら教えるが」
こうなったら、私のこの気持ちをシロにわかってもらうために、私が猫になるしかない! そしてシロに、猫だろうと恋人に対してはそう言う気持ちになるって認めさせてやる!
「では茜の仕事が終わったなら久しぶりに練習といくかの」
「はい。じゃあ、お仕事します。……あの、自分の判断力に自信ないから、あとでエッチじゃないかチェックしてもらっていい?」
「絶対大丈夫じゃと思うが、まあ、茜がそう言うならよいぞ」
とりあえず仕事はした。
ああ、シロのこんなあられもない姿が公共の電波に。このへそ天ポーズとか、可愛いけど、めちゃくちゃ可愛いけど、これ人間で言うとめちゃくちゃ大胆に見せつけてるよね。さすがにちょっとはエッチなのでは? いやいや、猫のへそ天ポーズは合法合法。
いやむしろ、合法的にシロがこんな姿で私といちゃついているのを世界に見せつけられるってものすごい恋人アピールのような、ちょっと別の性癖が出てきそうな。
「はい、じゃあ教えてください」
仕事を終えてから、猫のシロとしっかり向かい合って頭を下げてお願いする。シロはなにやら満足そうだ。
「うむ。なにやら急にやる気じゃな。吸血鬼の力に興味を持つのはよいことじゃ。一生付き合っていかねばならんからの」
「もちろんシロともね」
「……余計なことは言わずともよい。最初に霧のなり方を教えて以来じゃが、どこから手を付けたものか」
私の合いの手にシロは咳払いしてから顎に手をあてた。吸血鬼の力か。
今のところ、一番私が吸血鬼らしいって感じるのは、血を飲む時かな? っていうかそれ以外ないな。日差しを避けるのももはや日常的にしてるから意識しなくなったし。
「あ、そうだ。シロの血、飲ませてよ。人の血って飲んだことないし」
「……急じゃな」
シロはちょっと口を右によせた何とも言えない変な顔をした。これは、嫌がってる?
「吸血鬼の血を飲めば、もしかしたらその力で吸血鬼パワーの使い方わかるようになるかもだし、それに最初のころ、いつか飲ましてくれるって言ってたよね?」
「そうじゃったか?」
「そうじゃよー」
多分、血を飲ませて―って言ったら拒否はされず軽く流された記憶あるし。嫌なら仕方ないけど、豚以外の血を飲んでないから、純粋に味の興味もある。
「嫌ならいいけど、飲まれる時って痛いの?」
「いや、痛くはないはずじゃ。飲まれたことはないが、生きている人間にもらっても、睡眠からさめることもなかったしの」
「なんか嫌な理由があるの?」
「嫌、という訳ではないが」
なにやらシロは言いにくそうにしている。
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