第35話 旅行編 遠慮なく

「どれから食べよう、みんなどれが気になってる?」


 ついにお楽しみのお菓子だ。お菓子が見やすいように順番に近づけて映してから、視聴者の黒子さんに尋ねる。


 《酒もない?》

 《お、ついに飲酒配信か》

 《え? シロちゃんいるのにまずくないか?》

 《吸血鬼だぞ(笑)》


「お酒は配信終わって二人っきりになってから飲みます。酔った姿見られるの恥ずかしいからね。お菓子からお願いしまーす」


 一応ご当地商品の紹介も兼ねているのでお酒も見せたけど、勘違いさせてしまったみたいなのでちゃんと断っておく。


 《そう言わずに林檎酒から》 ¥300

 《旅館なら日本酒とかもおいてるよな 感想よろ》 ¥1000

 《じゃあ無難にポテチから》


「お酒は駄目だって。じゃあポテチね」


 《スパチ無視されてるの草》

 《金で動かない女》


 こっちの意向を無視されたんだから、そりゃあ無視するでしょ。スパチのお礼は後で言います。

 ポテチも二種類の味があるけど、この際だ、一斉に開けてしまえ! どーん!


「おー、二種類を一度に開けたのは初めてじゃ。テンションあがるの」

「二つともパーティ開けだから、画面映えするよね、いぇーい。食べよ」

「うむ」


 一緒にポテチをつまむ。あ、わさびのつーんとした感じ強めだな! うっ。


「じゅ、ジュースも飲まなきゃ」


 リンゴサイダーを手に取り、かしゅっと開けて一口飲む。


「お! この林檎サイダーめちゃうま! 爽やかでわさびの辛みも紛れる。これならポテチも食べれるね。シロも飲む?」

「そうしたいのはやまやまじゃが、それ、果実酒じゃぞ?」

「ん?」


 《めちゃくちゃ自然に飲んでて草》

 《シロにすすめるのはギルティ》


「あ。ふつーに間違えた」


 よく見たら手に取った缶は林檎酒の方だった。パッと見た感じどっちもリンゴが書いてるから間違えてしまった。


「まあ、半分までならよいじゃろ。わらわは配信中は控えるから、好きに酔うがよい」

「そう? ごめんね。ささっと全部味見して、配信終わらせて普通に食べよっか」


 シロは実際に成人としての身分を持ってる訳だから配信にも乗せられるけど、二人とも酔っ払うと収集付かないかもだしね。

 まあ、さっき酔った姿見られるの恥ずかしい、とか言ったけど言ってもそんな半分くらいでは酔わないしね。


 《シロちゃんも飲む前提で話してるのはまずいでしょ》

 《吸血鬼だからセーフ(笑)》

 《設定、だよな?》


「いや、わらわ普通に成人しておるんじゃが」

「前も言ったもんね。今度免許とったら見せてあげたらいいんじゃない?」

「免許の。しかし原付は16歳からとれるんじゃし、成人の証明にならんのではないか?」

「うーん? 確かに?」


 《え? 成人してんの?》

 《いやいやいや……え?》

 《吸血鬼なのに免許とれるのやべぇな》


「まあ、成人の証明はまた今度って言うことで。とりあえず他のも食べていこ」

「うむ。わさびのポテチ、わらわは結構気に入ったぞ」


 わさびポテチ以外も全部開けて、一通り食レポした。ジュースも全種類あけた。元々一気に飲んでも大丈夫なくらいしか買ってないしね。


「さー、それじゃあ、これで全部食べたね、美味しかったね」

「うむ。名前だけ見るとネタに走ったような味付けと思っておったが、実際にはちゃんと美味しくできておるのはびっくりじゃな」


 《これアカ酔ってるよな?》

 《べろべろに酔っているような、素面のような》


「これは酔っておるの」

「いやいや、酔ってるけど、べろべろではないよ、ふつーふつー」


 気分がよくなっているからシロのこと膝にのせて抱っこしてるけど、このくらいはまだまだほろ酔いだ。ちゃんと配信で言っちゃ駄目なこととか言ってないし。舌もまわってるし。


「では、後はゆっくり食べるとして、放送はこのあたりで終わりにしておくかの。スパチのお礼も後日にさせてもらおう」


 シロの言葉にコメントが流れるけど、いつもなら全部読めるのになんかちょっと目が滑るな。うーん、やっぱちょっとは酔ってるな。


「そうだねー。ごめんね、みんな。やっぱり酔ってるかも。お礼もするし、またツブヤイターで旅行の写真とかものせるねー」


 配信を切る。まだ酔ってない私は、こういう時は切り忘れとか怖いってことを思い出したので、ちゃんとパソコンの電源をきってついでにスマホも機内モードにする。完璧だ。


「ふー、それじゃ、ゆっくり食べよっか」

「うむ。茜、酔わぬようにちゃんとこっちのサイダーも飲むんじゃぞ」

「うんうん。あ、そーだ。飲ませてー」

「酔うと甘えん坊じゃのぉ」

「えへへ」


 特にそう言うことはないと思うけど、シロが飲ませてくれているのでよしとする。林檎サイダーも普通に美味しい。お酒のより果汁がおおいのかな?


「ほれ、あーん」

「あーん」


 シロが食べさせてくれるのでポテチも食べる。柚子胡椒味も美味しいし、爽やかなジュースと合うね。シロにもあーんして一緒に食べる。シロにもお酒を飲んでもらう。


「うむ。果実酒もうまいの」

「うんうん。おいしーね」


 シロの体をぎゅっとするとあったかくていい匂いがして、何だか美味しそう。


「んー。シロ、いい匂いだねぇ。何だか食べちゃいたい……」


 あれ? もしかしてこれって、吸血欲求? 旅行来る前にも血飲んで余裕あるはずだし、そもそも飲んだら美味しいけど目の前にないのに血が飲みたいと思ったことないけど? でも生身のシロに対して、こんな風に感じるのってそれしかないような?

 シロの頭に顔をすりつけ、耳をスンスン匂いをかぎながら

シロの膝を撫でる私に、シロはもじもじと身じろぎする。


「茜……こ、こっちのお酒も飲んでしまうぞ。汝はあとはジュースを飲んでおれ」

「うん。そうだね」


 とっても気分がいいけど、これ以上酔うとシロに噛みついちゃいそうだし、それがいいかもね。シロはぐいっと残っているお酒を飲んだ。

 私が先に開けちゃってたから、ちょっと炭酸抜けてないかな? 大丈夫かな? 美味しかったし家に持って帰るようにまた買おうかな。


「シロ、お菓子はどれが一番よかった? 気に入ったやつ家用にも買おうよ」

「ん? そうじゃな、メロン味のキャラメルはどうじゃ?」

「あー、いいね! ついでだし実家にもお土産セット作っておくろっか」

「茜にしては良い案じゃ。汝のご家族には世話になっておるしの」

「だよね! 私ってこういうこと、気が利くタイプだからさ」

「自分で言うのはどうかと思うが、まあそうじゃな」


 最終的に肯定するなら前半言う必要ないと思うな。私は気が利くので指摘するような無粋はしないけど。

 シロを抱っこしてるとあったかいし、ちょっと眠くなってきたかも。あー、でも、なんかちょっと、ムラムラもしてきたかも。


「明日お土産買うとして、朝何時に起きようか。午前中にもう一回スキーするなら、早めに起きなきゃだけど」

「そうじゃな……まあ、折角の旅行じゃしな。スキーは十分楽しんだんじゃし、少しくらい夜更かししても、わらわは構わんぞ」

「そっかー」


 もう寝よっかー。って言うつもりだったのに、まだゆっくりするのか。

 うーん、手持無沙汰な気持ちで、シロの体を何気なく撫でる。シロって華奢だし、こうして抱っこしてると腰も細いよね。浴衣越しにすべすべの細さが伝わってくる。髪からいい匂い。シャンプーとかの人工的な甘い香りと地肌の匂いが混じって、まろやかな私の好きな匂い。


 ……ん? なんか私、セクハラしてるみたいになってない?


「シロ、あー、えーっとさ」


 やっぱり酔ってるのか、ナチュラルに欲望のまま撫でまわしてしまった。わりといつものことなのだけど、今のちょっとシロの体を意識してる状態で撫でまわしてるのは下心ありすぎて、さすがに話が変わる。

 なので膝から降りてもらおうと思ったけど、自分からまあまあそう言わずにとか言ってむりやり膝にのってもらったのに降りてって言いにくいな。


「……茜」


 言葉に詰まる私をシロが振り向いた。見上げてくるその顔は、シロも酔っているのか赤くなっていて、なんだかとっても色っぽくてドキドキしてきてしまう。


「……」

「……ふふっ」


 シロはちょっと真剣な表情で、私は何を言われるのか黙って待って、それから急に微笑んだシロの表情に目を奪われた。何今の表情。めっちゃ可愛いって言うか、綺麗って言うか、あー、めっっっちゃ好きだわ!


「ん……」

「!?」


 シロの表情の変化に見惚れていると、シロは目を閉じてちょっとだけ顎をあげた。

 その仕草に、私は思わず顔を寄せていて、ほとんど無意識にキスをしていた。


 自分でキスをして、びっくりしてしまった。シロの唇、やわらか。

 と言うか、シロの事、恋愛感情でも好きかもーって感じだしてたけど、そう言う下心的なあれではあんまりなかったつもりなんだけど、あの、やば。うわ。めっちゃ、そういうこと、したくなってきた。

 さっきからそう言う気分だったけど、あくまでそれはちょっと酔っててそう言う気分というだけで、シロに対してって言うのじゃなかったのに。


「し、シロ、あの、あー……ご、ごめん」

「……何を謝っておるんじゃ。馬鹿者」

「いや、だって」


 いや、確かに猫の時とは言え自分からキスする関係になっていたわけだし、シロからしたら姿を変えても変わらないのかもしれないけど、正直、猫のシロにはちゅーって感じで、人だとやっぱキスって言うか、そう言うのになっちゃうって言うか。

 シロはいつものノリかもだけど、私は今完全にそう言う気持ちでキスしちゃったからって言うか、でもそんなの言えない。


「何を遠慮しておるんじゃ。茜のしたいように、すればよかろう」


 言い訳に脳みそが沸騰しそうで目がぐるぐるしてきた私に、シロは大人びた笑みでそう、柔らかな声で甘く囁いた。


「っ……し、シロ……」


 したいようにすればいいとか、いや、ちょっと、さすがにキスしてからのセリフでそう言う意味に聞こえるのは私の勘ぐりすぎではないよね?

 シロだって子供じゃないって言うか、むしろ私より大人なわけだし、これ、私の状態とか今のキスの意味わかっていってるよね?


「……ん」

「っ」


 シロの名前をただ呼ぶだけで精いっぱいな私にシロはまた目を閉じたから、もう私は言葉にすることすらできないまま、ただ欲望のままにシロを抱きしめてキスをした。

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