第31話 閑話:百合厨のおもい

 『あけましておめでとうございまーす』

 『いや、早いじゃろ』

 『そうだけどほら、編集したのは年明け投稿になるし、挨拶くらいはそうしておこうかと』

 『そう言われたらそう……か? タイトルで年末と入れるならむしろ混乱するのではないか?』


「ぐふふ」


 おっと、思わず笑いがもれてしまった。口をおさえる。

 今日は一年最後の日。大晦日だ。私はきゅーけちゅちゃんねるの生放送を見ながら一年を締めくくろうとしていた。


 私が彼女たちを見つけたのはわりと最近のことだ。仕事が忙しすぎて家に帰っている貴重な余暇時間に何もする気になれず、ひたすら動画サイトを無為に眺めていた私に飛び込んできたのがこのチャンネルの投稿動画だ。

 最初は猫動画を見て、可愛い、他にもあるかな、くらいだったのだけど、最初のから見て完全に猫より吸血鬼二人のやり取りに夢中になってしまった。


 配信者としてまだまだ新参でなれないところの多い二人は、特別目新しかったり、突飛で過激なことをしているわけではない。編集もシンプルでそれだけで引き込まれる演出とかはない。

 ただそれがいい。ホームビデオのような穏やかで安心感のある動画。ただただ仲良しの二人がいちゃいちゃしながら楽しくおしゃべりしたり遊んだりする。それがひたすら、癒される。

 一生見てられる。この二人を養いたいがために初めてスパチの設定もした。

 仕事は忙しいが、その分お金はある。私の今の生活では猫を飼う余裕はない。仕事そのものは望んだ職種だし満足しているけど、癒しはなにより必要だ。


 『あ、そうそう。ツブヤイター見てくれた人は知ってると思いますが、重大発表! 視聴者の皆さんの呼び名が決まりましたー、いぇーい』

 『うむ。まあ、名前があるのはいいことじゃな』

 『シロさん、発表してください!』

 『う、うむ。どぅるるるる……じゃん!』


 アカに促されてシロが恥ずかしそうにしながら一枚のフリップを手にして、じゃん、と言いながら表にした。『黒子さん』と書かれている。知っていたけど、無事にファンネームも決まって嬉しい。何となく一体感、みたいな気にもなるしね。


 『と言うわけで黒子さんに決定です。視聴者さん、あらため黒子さん、いっつも応援ありがとうございます。これからも頑張ります!』

 『う、うむ。ありがとうございます。わらわも頑張るから、これからもよしなに頼む』

 『これで一区切りだね』

 『うむ……それはいいんじゃが、この、効果音口で言うのめっちゃ恥ずかしいんじゃが。汝、よく普通にできるの』

 『えー? それは別に、普段からしてるし』


「はー。いぃ……」


 年相応に恥じらってるシロ可愛い。シロは大人びているようで子供っぽくて、しっかりもので、猫耳も尻尾も可愛いし、もう、可愛すぎる。

 もちろんアカも好きだ。アカは溌剌としていて気持ちのいい物言いをする。顔ももちろんいい。こんなに美人で気のいいフレンドリーな人なかなかいない。

 二人ともノリがいいけど、慎重で真面目なシロと、前向きでまず行動な二人が仲良くしているのを見ると、とてつもなく癒される。


 特別なことをしなくても二人が話してるだけで一生見ていられる。


  《にしても猫耳少女にはやっぱ首輪似合うな》

  《サイコパスだけどセンスは認める》


 『サイコパス言うなし。シロもちゃんと心から気に入ってくれてるんだから、ね?』

 『うむ。似合ってるじゃろ?』


 コメントに反応したアカの問いかけに、シロはそう言ってにっこり微笑む。うっ、可愛いっ!


  《うっ》

  《かわ》

  《浄化される》

  《う……死んだ》


 前回アカからシロにプレゼントして今もつけている首輪。とても似合っている。


 正直これは前回の段階でめちゃくちゃ興奮した。アカに自覚はないみたいだけど、こんなのは告白より上だ。


 そもそも首につけるネックレス自体、相手を束縛したりや独占したい、転じてずっと一緒にいたいと言う意味がある。その時点で実質告白みたいなものなのに、赤い首輪って。

 首輪なんて完全に所有欲の表れだ。ただのネックレス以上に、シロはアカの物で誰にも渡す気がないと言う束縛宣言だ。

 半端な告白をこえている。それでいて自覚が無くて、無意識にそれを選んだとか、私の好みのツボを押さえすぎだ。


 前回の放送後、元気になりすぎて洗濯やちゃんとした料理のストックまでつくれてしまったし。本当にこのチャンネルは健康にいい。

 反応からして、質問に対し冗談っぽく百合と自称していたけど実際には付き合ってはいないのだろう。それでいてこの付き合う一歩手前感。早くくっついてほしいもどかしさと、でもこのじれったいにやにや癒しをもっとみたい感じ。


 私はこれまで特に現実の人間の百合には興味なかったのだけど、この二人で変わってしまった。わからされてしまった。


 『と言う訳で、これ以上プレゼントで私をディスらないように。じゃあ次。年末だし、色々まろまろを参考に振り返っていこうか』

 『そうじゃな。まずひとつめ

  「こんにちは、いつも見てます。いつもお二人のやり取りに癒されています。お二人のなれそめを知りたいです。気になりすぎて昼しか寝れません。助けてください。」

  ふむ。振り返るってこういうことなのかの? 一応最初に出会った経緯は言っておったよな?』

 『まあ誰もが見てくれてるわけじゃないしね。私が事故に合って死にかけたところを、シロが吸血鬼の眷属にすることで助けてくれました。それから先輩吸血鬼兼猫のシロと、後輩吸血鬼の私、アカは一緒に暮らしてまーす』


 まとめるとそうなるのか。なかなかおもしろい設定だよね。シロがノリノリで先輩キャラをしているし、設定があってるっぽいよね。

 それはそれとして、設定じゃなくて実際に二人とも成人してはいるのかな? と言うのが気になるところだ。中学生っぽく見えるし、中身もそうかなって思うところもあるけど、それをいったらアカとどっちが年下、という時もあるし。

 おねロリは創作上では好きだし、だからこそこの二人のビジュアルも好みなのだけど、実際の中学生だとちょっと引くから、そこはちゃんと成人していてほしい。

 まろまろで何かしら成人の証明をお願いしておこうかな。


 『じゃあ次のお便りね』

 『うむ

  「こんにちは、好きです。吸血鬼は太陽が苦手と言うことですが、もっと設定知りたいです。愛してます」

  設定とか言われておるぞ』

 『えっと、確か前に設定まとめてたから、ちょっと待ってねー』


 呆れるシロを横目に、アカがなにやらメモを見ながら話しだした。

 それによると、直射日光は無理だけど衣類や日焼け止めでカバーもできる、何にでも変身できる、ニンニクや十字架は問題ない、血は完全栄養食だけど普通の食事でも栄養をとれるっちゃとれる、とのことだ。

 発表してなかったのに、ちゃんとこういう設定決めているところ、いつも適当にふわふわしているように見えて、アカもちゃんと根っこは真面目なんだなって感じる。そう言う努力家な面も、素直に応援しやすい。


 その後二人は今年の思い出とか、一番自分で気に入っている動画とか、視聴者、じゃなくて我々黒子さんの質問に答えていった。

 いっぱい届いているだろうまろまろを真面目に整理して消化していくし、ツブヤイターでのレスポンスも早いし、ファンサービスもいいんだよね。そう言うところも推せる。


 『それじゃあ次が最後かな』

 『うむ。

  「アカさん、シロさん、毎日癒しをありがとうございます。お二人のやりとりにはいつも癒されています。ありがとうございます」』


「ん?」


 あれ? これはもしかして


 『「前回のプレゼントは実に心温まるやりとりでしたね、感動しました。特に」』


 これっ、私のじゃん! や、やったー! ツブヤイターでは返事もらえるけど、ついつい気持ちがこもりすぎて長文になってしまうからか今まで採用されてなかったんだよね、今回は文字数を自分で絞って頑張ったから、ついに、採用されたんだ!


  《感動……?》

  《ついにやらせに手を出したか》


 ん? コメ欄に変な疑惑でてるな。否定しておこう。


  《読んでくれてありがとうございます! やらせじゃないし感動して泣きました!》 ¥10000

  《感動はやりすぎだろ》

  《ん? 本人?》

  《まじもんがいるのか、このチャンネル》

  《こいつスパチ常連だな、見たことある》


 『あ、尊み吉岡さん、いつもコメントありがとう! いつも全肯定コメントくれるから、励みになってます!』


「ああああ!」


 思わずしたスパチとコメントに、その場でレスポンスしてくれた! みんなの前で、私にだけ! う、嬉しい。読んでもらえただけで嬉しいのに。

 これ以上コメントしたらうっとうしいだろうからしないけど、嬉しい。嬉しくてちょっと手が震えてきた。お茶を飲んで気を紛らわせよう。


 『アカ、読んでいる途中で反応するのはよくないのではないか? いくら本人とは言え』

 『あ、でもだって、ほら、疑われてたし』


 言い訳をするアカに和みながらはっと気が付く、え、今、シロ、アカのことアカって呼んだ? うわ、うわ! 普段ずっと汝呼びだったけど、アカって呼び捨てにしてるんだ!

 私と同じことに気付いたコメントがざわめいているけど、二人にとってはツッコむことではないのかシロはスルーしてまろまろに目をやり口をひらいた。


 『とにかく、続きを、ちょっと戻して読むぞ。

 「今からとても楽しみにしています。それにあたり、来年の抱負があったら教えてほしいです」

  と。抱負、あったかの?』


 うわー、よかったー! 抱負は実のところどうでもいいけど、シロが読んでくれたし、なによりこの私のまろまろで最初のアカ呼びがでるなんて! 心臓痛いくらい嬉しい! 今回は今後も見れるように永久保存しておかないと。

 シロの問いかけに、アカは腕を組んでうーんと一瞬悩んで、んん!?


  『あー、うん、まあ。来年もシロと仲良く、ずーっと一緒にいたいです、みたいな?』

  『んにゃ……まあ、よいけど』


 アカは悩んだのも一瞬で、シロの肩を抱いて頬をよせてにかっと笑った。シロも照れたように視線を泳がせながらはにかんでるの、可愛い。可愛すぎる。

 あああああ、か、かわいすぎるっ!!! 自然な肩くみからの頬ぺたとか、ご褒美が過ぎるでしょ! 尊い!! しかも抱負も完璧すぎる!!!


 《感動しました! 一生推します!》 ¥40000


 私は決意と共に今年最後の限度額いっぱいのスパチをした。


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