第30話 茜のプレゼント

 《てぇてぇ》 ¥500

 《ここに式場をたてました》

 《式は何時から?》

 《ご祝儀おいておきますね》 ¥10000


 シロのプレゼントで視聴者さんも盛り上がっているし、もちろん私も嬉しい。これは大大大成功と言っていいよね! さすがシロ!


 「さて、じゃあシロのくれたこの猫ちゃんはいったんソファに座ってもらって、と、それじゃあトリを飾るのは、私のプレゼントだよ! じゃーん」

「お、おお。ありがとう。それでは開けさせてもらおう」


 シロは紙袋を開いて、中からさらに小さな袋を取り出す。別のお店で買ったものを一緒に入れているので、そこは私が別途買った普通のプレゼント袋だ。

 シロはただ受け取るだけなのにどこか緊張しているようで、慎重に袋を取り出してゆっくり開けた。


「なにやら二つはいっておるの」

「うん、猫のシロと、人のシロにお揃いでプレゼント。ふふ、開けてみて」


 視界の端でコメントが動くのが見えたけど、シロが喜ぶ顔を見逃したくないので意識の外にやって、私はにこにこ笑顔でシロを見守る。


「なんと、二つもとは、申し訳ないの」

「いいのいいの。シロにずーっとつけててほしいから」

「では、この大きい方が人間の方かの?」

「そうそう」


 シロはふむ、と神妙な顔で頷いてからゆっくり大きい方の袋を開けて中身を取り出した。


「これは……首輪か?」

「正確には人間用だしチョーカーね。猫のシロがお散歩する時念のため首輪があった方がいいかなーって言う実用性と、猫の姿でもオシャレしたいかなっていうのと、どっちのシロも大好きって言う感じで」

「……くくっ、くはははは! ははは! わっ、わらわに、このわらわに、く、首輪を送るか! はははは!」

「えっ、あのー、え?」


 あれ? 喜んでくれると思っていたのに、何故か片手に首輪を持ったままお腹をおさえて大爆笑されてしまった。ちらっとパソコン画面で反応を伺う。


 《くwびwわwwwwww》

 《さすがアカ! 誰もできないことをしてくれるぜ!》

 《これは監禁フラグ》

 《てぇ…てぇ……???》

 《美少女に首輪を笑顔でプレゼントするやべぇ女で草も生えない》

 《誰か通報しろよwww》

 《設定に忠実すぎてまじで草》


「……え、首輪のプレゼント、駄目だった?」


 《冗談じゃないのかよ》

 《自覚ないのが一番やべーやつなんだよなぁ》

 《サイコパス女www》

 《シロー! 逃げて前前!》


 コメントはあてにならない。私は一縷の望みをかけてシロを見つめる。

 シロは笑いすぎてひぃひぃ言ってたけど、ようやく笑いを抑えて目元の涙をぬぐった。


「くくくっ、はー、おかしい」

「あ、あの、シロさん、首輪、駄目だった?」

「ふふっ、いいや。構わんよ。デザインは首輪じゃが、人間用のチョーカーなんじゃろ? 駄目と言うことはない。つけてくれるか?」


 シロは笑いながら首輪を透明セロファン袋からだして、私に差し出した。

 よ、よかったーーーー! 誰がサイコパスだよ!! やっぱりシロのこと本当に思ってた私には、ちゃんとシロが喜ぶこと分かるんだから!


「もっちろん! よかったー! 一瞬外したかと思っちゃった」


 受け取ってソファの後ろにまわり、前をむいたシロの首に装着する。カメラ越しに、パソコン画面に首輪をしているシロが映る。


「にゃはは、わらわ以外には外れるからやめたほうがよいぞ。うむ。まあ、汝にしては悪くないプレゼントじゃ」

「でしょ!? すっっっごく似合う! 可愛い! 最強! あ、猫のシロにもつけるね! かわってかわって!」

「いやよいけど」


 ソファに置かれたプレゼント袋から、もう一つの方をとりだして開封、あ! やべ、勝手に開封しちゃった……。

 ちらっとシロを見ると、シロは画面外に出てから猫に変身して私を見上げている。怒ってなさそう。よし。


「シロおいでー」

「にゃん」


 背もたれを飛び越えてソファに座り、手を広げてシロを迎える。飛び込んできたシロを抱っこして、そっと赤い首輪をつける。

 人間用と同じデザインの、赤い首輪。顔をあわせるように抱きなおして正面から確認するけど、うん。シロの凛とした雰囲気にも合っていて、めちゃくちゃ可愛い。


「猫用はね、後ろにネームタグもついてるの。もしシロが迷子になってもこれで帰ってくれるからね」

「にゃ」


 シロはどこか呆れたようにしながら、自分で首輪をぽんぽんと叩いた。


「気に入ってくれた? 付け心地はどう?」

「にゃあ」

「気に入ってくれたんだね! ありがとう! シロ! 愛してるよ!」

「にゃあぁぁ」


 シロをぎゅっと抱きしめて、プレゼントが大成功したことを喜んでから、そっとシロを膝におろした。シロはびょん、と膝から降りて画面から出てから、人になって戻ってきた。

 隣に座ったシロはちょっと気恥ずかしそに自分の首をなでてから私と顔をみあわせてはにかんだ。私もそっとさっき置いた白猫ぬいぐるみを膝に乗せ、改めてカメラを向く。


「さて、ではプレゼント交換も終わったし、そろそろ最後じゃな」

「うん。そうだねいやー、完璧なクリスマスだったね」


 《完璧……?》

 《シロがフォローもできる完璧な美少女なことはわかった》

 《シロ、お疲れ様!》 ¥5000


 なんとでもいうがよい、シロが喜んでくれた、それが全てなのだ!

 最後にスパチのお礼もいって、生放送クリスマスも無事終わった。


「おわったー! シロ、お疲れ様!」

「うむ。茜もな。にしても、くくっ、首輪とは」


 電源をきって手をあげると、シロは首輪に手をあててくつくつと楽しそうに笑った。ほんのちょっとだけ不安もあったけど、放送の為に喜んだふりした訳じゃなかったみたいでほっとする。


「うん、なにがいいか悩んだんだけど、猫の時間も長いから人しか使えないアクセサリーとかは違うし、実用品も違うかなーって思って。気に入ってくれてよかった」

「ふふ、うむ。気に入ったぞ。しかし、迷子て、わらわが迷うわけなかろう」

「えー、そりゃそうだけど、万が一ってあるでしょ? この首輪なら最悪警察署にいけば戻ってこれるよ」


 シロに住所は教えたけど、現在地が分からなくなると住所を知っていても地図を持ち歩くわけでもないしわからない。確認してないけど空も飛べるだろうし滅多なことはないだろうけど、絶対使い道がないってことはないと思うけど?

 だけどそんな私に、シロはおかしそうに目を細めた。


「あったとしたら、人になって道をきけばよかろう。それか電話をかける。なんのための携帯電話なんじゃ」

「え? あれ? もしかしてだけど、荷物持ってても変身したらなくなるってこと?」

「どうして衣類だけじゃと思ったんじゃ?」

「えー!びっくりだよ! 気づかなかった!」


 言われたら確かに服しか無理、なんて話は聞いてないけど、でも普通そう思うじゃん!? 荷物もデータとして消せるって、実質四次元ポケットと言うか、アイテムボックスチートじゃん!?

 めちゃくちゃびっくりしてしまった私に、シロは膝の上にあおむけに寝転がってころころ笑った。


「生き物はいかんが、わらわの持ち物なら衣類と同じじゃよ」

「すっご、でもいわれてみればそうか。アクセサリーとかだって物っちゃ物だもんね。はー」


 びっくりしたけど、考えたら服だって金属やプラスチックもついているのだ。それらができる以上、繊維以外もできると言うのが自然な発想だ。改めて吸血鬼便利だなぁ。もうちょい真面目に吸血鬼力の練習しよ。


「しかし、あれじゃな」

「なに?」


 シロは器用に爪先を指輪にひっかかけて引っ張りながら、にんまりとどこか含みのある声音をあげた。なんだろう?


「このようなものをつけさせられて、わらわは、いつでもどこでも、茜の物じゃと主張させられておるようじゃの。汝は以外と、独占欲がつよいの」

「えっ、そ、そういう、変な意味じゃ全然ないって言うか、いや、シロのこと、本気でペットとか、物とか、そんなの思ってないよ!?」


 確かに猫の姿のシロのこと、全力で猫扱いしている。人だとさすがにためらうレベルで可愛がっているし、というか人状態も小さいのもあってわりと妹感覚で可愛がってしまってる。

 でもけして、シロを本気でペットと思ってるとか所有したいとかそう言うあれじゃあないんだよ!?


「そうか? ふふ、わらわは別に、構わんがな」

「えっ」


 起き上がって膝の上でお座りして見上げるような姿勢で言われて、思わず言葉を失ってしまう。

 全然意識してなくて、本当にただ猫でもあるシロだから、首輪というのに全然違和感なかっただけで、確かによく考えてみればただの人間にはい首輪ってプレゼントはやばく感じる。

 それが構わないってどういうこと、でもシロは実際に猫でもあるし、ただ単に猫の感覚的にいいよってことなら。でも、なんかちょっと、意味ありげと言うか、え?


「にゃはは、冗談じゃ。じゃがな、首輪をつけるのが嫌ではないのは本当じゃ。茜の気持ちなんじゃろ? 気に入った」

「う、うん、まあ、はい。その、気持ちはこめました」

「ならばよい、……ん」


 思わず混乱してしまったけど、冗談だったらしい。あ、焦った。いやべつに、他意なんてないに決まってるし、私が何にも考えなさ過ぎたせいなんだけど。

 それに、本当にシロにすごく似合っているし、喜んでほしいって、シロが少しでもおしゃれとして楽しいって、そう思って心を込めたのは本当だ。

 そこには嘘はない。だから頷いた私に、シロは満足そうに笑って、顔をあげた姿勢のまま目を閉じた。


 その鼻先を突き出すようなしぐさに、猫のままなのになんだか妙に色気を感じてしまって、私はちょっとだけ変な気持ちでキスをしてしまった。

 ごめん、シロ。その、あ、明日からはちゃんといつも通りになるので。はい。

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